<社説>GoTo全国一斉停止 事業者支援へ直接給付を

 菅義偉首相は28日から来年1月11日まで、観光支援事業「GoToトラベル」を全国一斉に停止すると表明した。経済を優先して事業の停止をかたくなに拒んできた菅首相だが、専門家の警告や世論の反発に押され、ようやく方針転換を決めた格好だ。 医療現場の逼迫(ひっぱく)を防ぐため、もっと早く事業を止めるべきだった。あまりに遅すぎる。観光事業者は年末年始の予約を受け入れており、政府の突然の方針転換により損失を被る。泥縄式の対応で感染蔓延(まんえん)と混乱を招いている首相の責任は重大だ。

 医療崩壊を食い止めるためにも、影響を受ける事業者への営業補償が急務だ。感染対策に優先して取り組む環境を整えることになる。一時停止したGoTo事業の予算を観光事業者への直接給付に振り向ければ、補償の財源はすぐに手当てできるはずだ。

 菅首相は15日に「年末年始にかけて、これ以上の感染を食い止めることに全力を挙げたい」と語った。しかし、「GoToトラベルが感染を広げたというエビデンス(証拠)はない」と繰り返し、新型コロナウイルス対策に緩みを生じさせてきたのが首相自身ではなかったか。

 政府は11月25日に「勝負の3週間」と宣言したが、繁華街の人出が大きく減らないなど、感染を抑え切れていない。12日には国内の1日当たりの新規感染者が過去最多の3千人超を記録した。

 沖縄でも14日時点の新型コロナ患者の病床占有率が84.9%に上る。さらにコロナ以外の一般病床の利用率は90%以上に達し、通常医療が危機に直面している。例年、冬場は心筋梗塞や脳卒中などの発症が増える時期であり、コロナ患者受け入れのため一般病床数が減っているためだ。

 玉城デニー知事は17日から28日まで、那覇、浦添、沖縄の3市の飲食店と接待を伴う遊興施設を対象に営業時間の短縮を要請することを14日に発表した。医療崩壊を防ぐため、接触する機会を減らすことは必要な措置だろう。

 リスクの高い高齢者を感染から守り、過酷な現場で働く医療従事者らの負担を少なくするためにも、県民一人一人が感染を広げない対策に努めることを心掛けたい。

 年末年始の需要を頼りにしていた観光事業者らの悲痛な叫びにも、手を差し伸べなければならない。徹底した感染対策を図る上でも、GoTo停止と営業補償は完全セットでなければならない。キャンセルになった予約分を政府が補?(ほてん)するのはもちろん、さらなる経営支援が必要だ。

 政府は一連のGoToキャンペーンの予算に1兆6794億円を計上した。GoToトラベルへの3119億円の追加支出も決めている。今回の停止を機に予算の運用を見直し、旅行代金の補助による観光促進ではなく、観光事業者への直接の支給で経済を支えることだ。

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