心に残った音は

　冬の足音が聞こえてきました、とニュースの天気予報でよく耳にしていたが、最近の列島は寒気にすっぽり覆われている。春夏秋冬、季節は足音を響かせながらやってくる▲季節の言葉を集めた本に「木の葉の雨」という一語を見つけた。木の葉が一斉にザーザーと乾いた音を立てて散る。そのさまを雨に例えているが、これも冬の音だろう▲人は季節の移ろいに耳を澄まし、その時々の出来事にも音を聞く。「この1年で心に残った音は何ですか？」。補聴器などを製造するリオン（東京）が11月、全国の千人にアンケートしたところ、上位には新型コロナにまつわる音が並んだ▲最多の答えは、緊急事態宣言で「閑散とした繁華街、観光地の静けさ」。ざわざわとした場所から音が消え、日常が消えた。その光景が心に刻まれたらしい▲2位はスポーツの無観客試合での「選手の声、競技中の音」。3位は、医療従事者に送られた感謝とエールの「拍手」。ピッと鳴る体温計の音も上位に入った▲今はどうかと言えば、急ブレーキを踏んだ「Go　To　トラベル」に戸惑う声、「対応が後手」と政府を難じる声が音量を増す。思えば今年、日本の首相から国民が安心できる言葉を聞いたかどうか。「この1年、ほっとした声や音は？」。自問してみて答えに詰まる。（徹）