核なき世界への決意に普遍的な価値 壊れた星を未来に残す訳にはいかぬ

 国連のグテレス事務総長は2020年11月25日、共同通信とオンラインで単独会見し、核なき世界の実現に向け、核兵器禁止条約の1月発効を評価、国際的な取り組みを進める必要性を強調した。新型コロナウイルスの感染拡大を阻止するため、強力な国際的組織構築を提案した。(聞き手、共同通信=山口弦二、黒崎正也)

共同通信の単独オンライン会見に応じる国連のグテレス事務総長(国連提供、共同)

 ―2021年1月に発効する核兵器禁止条約は実効性が疑問視されています。

 核禁止条約には非常に重要な象徴的性格がある。幻想は抱いていない。核兵器なき世界が明日実現することはない。しかし、核なき世界という長期目標を持つことは重要であり、この条約は、その方向性を明示する極めて重要な役割を持っている。

  ほかにも実行すべき側面はある。一つは核拡散防止条約(NPT)再検討会議だ。核兵器の拡散を確実に防止する必要がある。また例えば、米国とロシアが新戦略兵器削減条約(新START)を延長することは絶対不可欠であり、米ロが最近失効した条約(中距離核戦力=INF=廃棄条約)の交渉に戻れるようにもなってほしい。

 つまり、核なき世界という長期目標を実現するのは、まずは核リスクを軽減し、核不拡散を確かなものとし、さらに核軍縮問題に進む必要があるという複合的な取り組みだ。それが、核兵器(の使用)からわれわれが身を守る唯一の手段だ。(核なき世界の実現は)明日のことではないが、この条約は非常に重要な象徴的価値を持っており、核なき世界に向けた非常に強い思いが多くの国にあることを示した。

-日本の役割をどう考えますか。

 1980年代に初めて広島を訪れた際、感銘を受けた。生涯忘れることのできない瞬間だった。国連事務総長としては昨年、長崎の平和祈念式典に出席した。2020年は広島に行く予定だったが、不運にも新型コロナウイルスのため行けなかった。日本でも(国連本部がある)ニューヨークでも被爆者と会見し、その立ち直る力と勇気と決意に驚いた。彼らの指導力や献身的姿勢には感謝しかない。彼らは核なき世界の実現に向けたわれわれ共通の決意の普遍的な象徴だ。

核兵器禁止条約の批准50カ国・地域到達を祝う集会に集まった人たち。後方は平和祈念像=10月25日午後、長崎市の平和公園

 ―21年に見込まれる核禁止条約締約国会議への日本政府のオブザーバー参加を求める声が日本国内には多くあります。

 軍縮に向けた日本の絶え間ない取り組みが将来の行動につながることを期待する。しかし日本政府のオブザーバー参加について、私は日本政府に指導をする立場にない。日本もそれを必要としていない。日本が軍縮問題に全力で取り組むと信じている。

 ―トランプ米政権の外交政策をどう評価しますか。バイデン次期政権に何を期待しますか。

米デラウェア州で勝利を祝う民主党のバイデン前副大統領(左)と、ゴルフ場からホワイトハウスに戻る共和党のトランプ大統領(いずれもロイター=共同)

 米国が国際協調や多国間主義におけるかけがえのないパートナーであることを真に信じている。民主主義や人権の価値観、国際協調、平和と安全に関し、米国の存在感や取り組みは不可欠だ。もちろん、次期政権が多国間主義や国際協調、われわれが大事にする価値観に深く関与することを期待している。世界の不平等を軽減するため、民主主義や人権、平和と安全の促進、気候変動、持続可能な開発目標(SDGs)、国際協調に深く関与してほしい。

 ―創設75年を迎えた国連は今、多国間主義の欠如に苦しみ、新型コロナの影響で外交活動は停滞しています。

 新型コロナで分かったのは、多国間外交の不十分さだ。個々の国が自らの道を進んでいる。地球規模の無秩序だ。なぜか。それは国際的な組織、つまり世界保健機関(WHO)が各国政府に協調路線を歩ませる強制力を持っていないからだ。それぞれの国が好きなことをしている。われわれも日本も当初から、新型コロナのワクチンを世界の公共財とすることを約束しているが、(ワクチン開発に各国が共同出資・購入する枠組み)COVAX(コバックス)のために資財を結集する難しさに直面している。

 つまり、新型コロナで分かったのは世界の脆弱(ぜいじゃく)性だ。同じことは気候変動問題やサイバー空間の無法ぶりについても言える。国際社会にはより良質な統治が必要であり、そのためにはさらなる国際協調とより強力な国際的組織が必要だ。

 -未来世代に残さなければならないことは。

「あなた次第(しだい)」と英語で書かれたポスターを持つ子ども=アメリカ・ニューヨーク(日本ユニセフ協会提供)

 新型コロナのパンデミック(世界的大流行)から得られる教訓があるとすれば、ポピュリズム(大衆迎合主義)は役に立たないということだ。パンデミックと闘う上でポピュリズム的なやり方は失敗し、国際協調が生かされたところでは新型コロナの悪影響も限定的だった。新型コロナからの復興計画では、何兆ドルも使って持続可能な開発の取り組みをすると同時に、莫大な負債を未来世代に残すことになる。

 壊れた星を未来に残す訳にはいかない。この金を持続可能で非排他的な開発に使い、いまだに第2次大戦直後の世界を多かれ少なかれ反映している国際的組織を改革する仕組みをつくるということを確かなものにする必要がある。国連安全保障理事会を見ても(第2次大戦に勝った米国など連合国による戦後の国際経済の枠組み)ブレトンウッズ体制を見ても、その構成や狙いは第2次大戦直後の世界を反映している。われわれは現在の世界を反映する多国間外交を必要としており、全員がそれを強く決意すれば、未来の難題にも共に取り組むことができると期待している。(おわり)

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