当たり前の風景が

 冬の夕刻、JR長崎駅前の広場では高さ11メートルの光のツリーが輝き始める。今年は点灯する数が少ないというが、仕事帰りに立ち寄って見上げたツリーは柔らかな光をまとい、見とれるばかりだった▲例年そこにある何かが、今年もある。例年行われていることが今年もある。それだけなのに、いくらかホッとする。新型ウイルスに揺れたこの1年、あって当たり前の風景や物事が立て続けになくなり、中止されたからだろう▲クリスマスイブの昨夜は、うちで過ごす人が多かったらしい。忘年会が続いたあと、イブはおのおの街に繰り出す。そうした、あって当たり前の風景が遠く思える▲年末年始はどう過ごしますか? 日本生命保険が6千人余りに聞いたアンケートで、70%以上が「自宅・自宅周辺で」と答えた。「見通しが立たない」人も10%ほどいる▲「帰省」は7%で昨年の調査より10ポイント減り、「国内旅行」は4%にとどまる。調査は12月上旬だったが、いま尋ねればもっと数字は下がるだろうか。「あって当たり前」がさらに遠のく▲昨夜はうちで色とりどりに飾られたツリーを眺め、いつもより少しにぎやかに過ごしたご家庭もあるに違いない。〈金銀の紙ほどの幸クリスマス〉沢木欣一。不安と我慢の年末、ほんのささやかな幸いが心に染みる人もいるだろう。(徹)

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