結露の年に

 車の運転席に座ったら、フロントガラスが曇って前がよく見えなかった。タオルで拭くとキュキュッと小さい音がする。小学生の頃の記憶がふとよみがえった。真冬、白くなった窓ガラスに、自分の名前を書いてみたり、下手な絵を描いたり…▲部屋の中の暖かい空気が、冷たい窓ガラスに触れる。そうすると空気中の水蒸気が細かい水滴に姿を変え、ガラスを白くする。結露という現象の仕組みを知ったのは、いつだったろう▲いま、寒風にさらされる人が数多くいる。凍える心に、温かな支援や励まし、心遣いがそっと触れる。そうやって冷えたものと温かいものが触れ合えば、人は目をうるませ、目元に水滴を浮かべるのかもしれない▲コロナ禍が収まらない世の中で、感涙という露が結ばれますように。新年を迎え、祈願するのは何をおいても収束だが、人を思いやり、知恵を絞り、昨年より心の潤う年にもしたい。経営難、生活苦、先行き不透明-と、苦境に立つ人が山ほどいる▲「息」には「止める」の意味があり、「息災」とは災難を防ぐこと、無事でいることを言う。年の初めにこれほど切に、世の無病息災を願ったことはない▲いま、窓の結露に願い事を書くとしたら? 「息災」では画数が多いから、さらりと、右肩上がりの「↗」なんてどうだろう。(徹)

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