島の学校・大崎 初の甲子園へ “再起”からわずか3年

昨秋の九州大会で初優勝して選抜出場を確実にした大崎の選手たち。後方2列は今も後輩を支える3年生=西海市、大島若人の森野球場

 長崎県の球史にまた一つ、新たなページが刻まれる。今月29日に決定する第93回選抜高校野球大会(3月19日から13日間・甲子園)の出場32校に、長崎県から大崎の初選出が確実になっている。少子化が進む島の学校が、実績のある監督の就任を機に急成長。昨秋、地域の後押しも受けて九州大会を制した。まるでドラマのように夢を実現させたチーム、盛り上がる地元を紹介する。

 西海市の大島と崎戸島の頭文字を取った「大崎」。かつて炭鉱で栄えた両地区の人口は、60年前の約4万人から現在は約6千人まで減った。唯一の高校、大崎の生徒数も100人を超えるほどしかいない。過去に好成績を残したこともあった野球部も、1990年以降の夏の長崎大会は2度の3回戦進出が最高。近年は部員不足のため、他校と合同で大会に出場したケースもあった。
 そんなチームが2018年春、清峰や佐世保実を甲子園に導いてきた清水央彦監督の就任と同時に“再起”した。県内各地の有望な中学生(現高校3年生)も多数入学。もちろん、すぐに勝てるほど高校野球は甘くない。初陣となった同年5月のNHK杯佐世保地区予選、続く夏の県大会ともに初戦コールド負け。翌19年も夏まで目立った結果は出せなかった。
 快進撃はそこから始まった。現3年生がチームの最上級生になった19年秋。県大会で58年ぶりに頂点に立つと、続く九州大会は初戦敗退したものの、準優勝した大分商と延長までもつれる好勝負を演じた。その後はコロナ禍で戦う場がなくなったが、甲子園が中止された昨夏、県の独自大会で再び優勝。現3年生は清水監督の下、チームの礎を築き、後輩たちへ夢のバトンを託した。

テンポのいい投球でチームを九州王座に導いた大崎のエース坂本(右)と1年生の勝本=西海市、大島若人の森野球場

 迎えた今季。勢いはさらに強まった。まずは昨秋の県大会でV2を達成。先輩たちから続く県内無敗を守った。九州大会も開新(熊本)、延岡学園(宮崎)、明豊(大分)、福岡大大濠を連破して初優勝。清水監督が率いて3年弱で、西海市から初の甲子園を決定的にした。
 この九州制覇の原動力となったのは、大黒柱の右腕坂本安司、決勝で1失点完投した1年生左腕の勝本晴彦をはじめとする投手力だった。テンポよくアウトを積み上げるバックの力も大きかった。打線も乙内翔太、村上直也、調祐李、松本慶一郎、山口剛大らが、日替わりで勝負強さを発揮。攻守両面で文句なしの九州王者となった。
 喜びもつかの間、選手たちは現在、厳しい冬のトレーニングに奮闘している。「県や九州の代表になるので、例年以上に鍛えたい」と宣言していた指揮官の言葉の意味を、身をもって感じている。ただ、その懸命な姿は「やらされている」ようには見えない。部員29人全員が「全国で勝つんだ」という決意を胸に、自らの壁を越えようとしているように映る。

昨季のエースで3年生の田中駿佑。ブルペンで後輩の球を受けてアドバイスすることも=西海市、大島若人の森野球場

 エース坂本が言葉に力を込める。「甲子園があるからみんなモチベーションが上がっている。秋に出た課題を冬に克服して、さらにレベルアップしないといけない。球速は145キロまでは上げたい。三振が取れればテンポはもっと良くなる。一戦一戦、集中して戦いたい」
 今月29日に吉報が届くのは間違いない。本番まで残り約2カ月半、心技体に磨きをかけて聖地へ乗り込む。胸に「OHSAKI」、左袖に「西海市」と記された白のユニホームの選手たちが、夢の舞台でどんなプレーを見せてくれるか。
 球春が今から待ち遠しい。


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