こんなのできる?

 うわ、危ない、怖い、見てられない。でも、本人は平気な顔だ。ねえ、こんなのできる? 公園のブランコや鉄棒やジャングルジム。運動神経バツグンの子が自作の妙技を披露して得意げに笑う▲会心の演技の後の選手たちの笑顔は懐かしい誰かの顔にどこか似ている。…F、G、H、I、J。体操競技の難度の進化はきっと、あの「こんなのできる?」の冒険心の延長線の先にある▲鉄棒のバーを後ろ向きに飛び越しながら後方に2回宙返りしつつ2回ひねる。内村航平選手が昨年、鉄棒の演技に取り入れた「ブレトシュナイダー」は2014年に発表されたH難度の離れ技▲内村選手が“体操の世界史”に初めて名前を刻んだのは08年の北京五輪個人総合銀メダルだ。そこから13回目の新年、王者の美しい体操は前進を止めない▲仕切り直しの五輪イヤーが明けた。コロナ禍の出口は見えない。この夏、本当に東京で五輪が開催できるのか、その答えは誰も持ち合わせていない。感染者数の推移を見るたび気持ちは揺れる。それでも見たい。東京で得意そうにこぶしを突き上げる笑顔▲きょう3日は内村選手の誕生日。たった7日間しかなかった昭和64年の生まれで、32歳になった。五輪や世界大会のレベルに限れば「昭和」は間違いなく少数派になりつつある。(智)

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