豪州で語学留学&ワーホリ 侍ジャパン女子代表・中島監督が伝えたいチャレンジの勧め

侍ジャパン女子代表・中島梨紗監督【写真提供:NPBエンタープライズ】

大学卒業後に語学留学で渡豪「行ってよかった!」

2021年3月に開催される「第9回 WBSC女子野球ワールドカップ」に向け、新チーム作りが着々と進んでいる。大会7連覇を目指すチームを率いることになったのは、中島梨紗監督だ。現役時代は日本代表としてW杯に5度出場するなど、屈指の右腕として鳴らした指揮官だが、その経歴がまた興味深い。なんと、大学卒業後に語学留学とワーキングホリデーでオーストラリアに2年滞在しているのだ。

小学2年生から野球を始めると、地元中学では男子ばかりの軟式野球部に所属。女子野球の強豪・神村学園(鹿児島)に進学し、桜美林大では男子準硬式野球部に練習生として参加しながら、クラブチーム「侍」でプレーした。大学在学中から日本代表に選ばれていたトップ選手は、なぜオーストラリアを目指したのか。

「当時、日本人として初めてアメリカ女子リーグのプロ選手になった鈴木慶子さんが率いる『ファー・イースト・ブルーマーズ』という期間限定チームがあり、私も大学1年生の春休みに『海外遠征に行きませんか?』って誘っていただきました。その遠征先がオーストラリア。所属していた『侍』の選手何人かで、最初は『オーストラリア? 行こう行こう!』という修学旅行のようなノリで参加してみたら、メチャクチャ楽しくて(笑)。でも、その時に英語が全然話せませんでした。『これで英語が話せればもっと楽しめたのに……』という想いがすごくあり、大学を卒業したらオーストラリアに行きたいと思うようになりました」

スケジュールも味方した。北半球の日本と南半球のオーストラリアでは四季が逆転するため、野球のシーズンがかぶらない。夏は侍のメンバーとしてシーズンを戦い、冬はオーストラリアで学び、働きながら野球をする。そんな生活を2シーズン送った。

ワーキングホリデーを利用した時は、野球チームの仲間の紹介を通じて、いろいろな仕事を経験したという。「みんながいろいろな話を持ってきてくれました。学校対抗の野球大会で審判をしたり、女子ソフトボールチームの臨時コーチとして週に1、2回、放課後に指導したり」と振り返るが、何も野球に関わる仕事だけではない。

「たまたまホームステイ先の家族と行った日本食レストランが、日本人の方がオーナーで、ステイ先のお母さんが『この子、日本人なんだけど働かせてもらえませんか?』と聞いたら快諾してもらえたんです。その流れで日本食レストランでも働きましたし、チームの監督の実家が大工で、現場で物を運ぶお手伝いもしました。あとはチームメートのおばさんが働いている工場で人手が足りないっていうので、2か月くらい働きましたね。注射器の針を数えて袋に詰めるというライン作業もやりました」

侍ジャパン女子代表・中島梨紗監督【写真提供:NPBエンタープライズ】

自分の意見を英語で表現できず…『喋るのやめた! もうイエスしか言わない!』

大好きな野球をプレーしながら海外生活を楽しんでいるように思えるが、もちろん苦労もした。「言葉の壁」だ。

「言葉の壁を越えるまでが大変でしたね。しばらく経つと耳が英語に慣れてきて、人が言っていることは分かるようになる。でも、それに対して自分の言葉を返せない時期があって『喋るのやめた! もうイエスしか言わない!』と思ったこともありました。でも、これを越えて、自分の思ったことをドンドン発信できるようになると『あ、すごく気持ちいいな』と思えたんです。聞き取ったり理解したりするというのは割とできると思いますが、思ったことを言ったり集団の会話に入ったりするのが難しい。会話についていけたと実感できた時は、本当にうれしかったですね」

英語で自分を表現できるようになると、野球でも一皮むけたという。

「野球でも自分の意見を言えるようになると『この子もちゃんと考えているんだ』って見てもらえるようになり、踏み込んだコミュニケーションを取れるようになりました。オーストラリアでは自分の意見を言わないと、置いていかれるだけ。人見知りだったり大人しかったり、性格はあると思いますが、チームに入って野球をするとなった時はそれではダメ。自分を出すべき時は出すことで、選手として一歩も二歩も上にいけると思います。『気持ちに気付いて』と待つのではなく、声を出して伝える大切さに気付きました。日本に帰ってきても、必要な時にパッと言えるようになったと思います」

英語でコミュニケーションが取れるようになると、オーストラリア球界でネットワークが広がった。そこから生まれた縁を通じて、現役引退後は日本の冬場にオーストラリアでコーチング修行。2018年の第8回W杯でオーストラリア代表の投手コーチも経験した。すべては一歩踏み出す勇気から始まったわけだが、「つまづくこともありましたが、今はやっぱり行ってよかった、とすごく思っています」と笑顔を浮かべる。

時折、現役選手から海外経験について聞かれることがあるという。海外でプレーすることに興味を持つ選手に返すのは、決まって「絶対に行った方がいいよ」の言葉だ。

「行くこと自体がすごくいい経験になると思うと伝えています。やはりいろいろな経験をして成長していくと思うので、失敗と言われようが、成功と言われようが、自分がためになったと思えばプラスですから」

結果はどうであれ、チャレンジすることが自分の成長を促し、世界を広げる。自分が体験したからこそ送りたい、中島監督による「チャレンジの勧め」だ。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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