緊急事態宣言へ

 「個人の努力だけで感染拡大状況を沈静化するのは難しい。個人の努力だけに頼るステージはもう過ぎたと認識している」。新型コロナウイルス対策分科会の尾身茂会長が国会の委員会でこう語ったのは11月の下旬だった▲そこから1カ月と少し、「個人の努力」は続いてきた。念入りなうがいと手洗いに加え、忘年会のない12月、帰省もUターンも混雑とは無縁、年始回りも初詣も見合わせた正月…。それでも感染者数は、年の瀬から年明けに掛けて大きく跳ね上がってしまった▲2021年の仕事始め、テレビの画面に菅義偉首相の沈痛な表情があった。新型コロナ特措法に基づく緊急事態宣言が週内にも東京など1都3県に出される見通しになった。期間は1カ月程度が見込まれる▲ようやく重い腰が上がった、と書きかけて、待てよ-と思い直している。前も書いたが、宣言は私権の制約を社会全体で容認する仕組みだ。この権限を簡単に振り回させてはならないし、この仕組みに慣れてはいけない▲それなのに、ああ、やっと緊急事態宣言か、と考えてしまうのは、政治があまりに無策に思えるからだ。専門家の発言を都合よく切り取り、都合の悪い警告は聞き流す姿勢が変わらないからだ▲首相は“経験の蓄積”にも言及した。その成果を見せてほしい。(智)


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