「軽装社会」へ?

 歌人俵万智さんが選者の歌集「花咲くうた」(中公文庫)に遠い昭和を振り返る一首がある。〈テレビには「あかるいナショナル」流れをり あああの頃の「明日」のあかるさ〉吉浦玲子▲俵さんはこう解説する。〈高度経済成長の頃だろう。家電メーカーの、希望に満ちたコマーシャル。電気洗濯機、テレビ、冷蔵庫…文明の利器は、人々の暮らしを豊かな気分でいろどった〉▲昭和40年代の大型板チョコのCMでは〈♪大きいことはいいことだ〉と軽妙な歌が流れた。「大きい」は「豊かな」と言い換えられるだろう。便利な物に囲まれた、ぜいたくな「明日」を思わせる▲それから60年ほどたち、人々の望みは変わった。2021年に普及しそうな商品やサービスは? 博報堂生活総合研究所が千人に聞いたところ、「無駄、不要なものを減らし、生活の質を高める」志向がうかがわれたという▲1位は現金を使わず、生活を少しスムーズにする「キャシュレス決済」。2位はトラブルの不安を減らし、安心を増す「ドライブレコーダー」。4位は通勤生活を見直し、自宅で働く「テレワーク」…▲慣習という衣を人々が1枚、2枚と脱ぎ、“軽装社会”へと向かうのかどうか。まばゆいほど明るくなくていい、安定した、安心できる明日に。そんな願い事にも思える。(徹)

 


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