「僕にしかできない最高の形での恩返し」大島祐哉を掻き立てる“最後の目標”

東京五輪代表を本気で目指し、努力を重ねてきた大島祐哉(木下グループ)は、怪我により志半ばで選考レースから強制的にリタイアさせられた。

高い目標に向かって、一心不乱に卓球をしてきた大島が、初めて目標を見失った瞬間だった。

そこから家族の支えにも助けられ、また前を向き始めている。そして今、大島の心には、1つ叶えたい目標が生まれていた。

最後の目標は“恩師への恩返し”

大島選手が掻き立てられる目標が見つかると良いですよね、そう語りかけたときだった。

しばしの沈黙の後、大島が口を開いた。

「東山出身の僕にしかできないんじゃないかということが一つあるので。それだけはやりたいというのが心の中にはあるんですよね」。

写真:大島祐哉(木下グループ)/撮影:田口沙織

「それが全日本選手権シングルス優勝なんですよね」。

高校卓球界の名門・東山高校は、大島を筆頭に笠原弘光、時吉佑一ら総勢400名以上のOBを輩出してきた。だが、全日本選手権のシングルスを制した選手は未だ生まれていない。2019年の大島の準優勝が最高成績だ。

写真:大島祐哉(木下グループ)/撮影:田口沙織

大島は、東山高校卓球部時代の恩師、今井良春名誉監督、宮木操監督への思いを明かした。

「今井先生ももう86歳なので、全日本シングルス優勝を見せてあげたいという気持ちがどこかにはあるんですよね。いろんなときに声もかけてもらいましたし、今井先生、宮木先生に教えていただいて、今の自分がある。最後、恩返しできる自分の最高の形は全日本シングルス優勝しかないと思ってます」。

「恩返しできる自分の最高の形は全日本シングルス優勝」

掻き立てられる最後の目標へ

現在、男子日本卓球界は、Tリーグが発足したこともあり、中堅層からベテランまでが高い実力を維持している。さらに2020年の全日本選手権では優勝の宇田幸矢、準優勝の張本智和、3位の戸上隼輔とベスト4のうち3枠を高校生が占めるなど、若手の台頭も著しい。

写真:Tリーグでプレーする大島祐哉/撮影:ラリーズ編集部

年々レベルアップする日本卓球界の中で、優勝するためには生半可な努力では辿り着けない。そんなことは大島もわかっている。

全日本のシングルスで優勝しようと思ったら、1年間何かを捨てなきゃいけない。スポーツ選手は何かを捨てて何かを得る。そこまで目標に対して熱意をかけられるかどうか。どこまで自分が前を向いて目標に対してアプローチして何かをやれるか。大きな目標はそうじゃないと達成できない」。

写真:大島祐哉(木下グループ)/撮影:田口沙織

大島の言葉にも熱がこもる。

「僕自身の年齢もありますし、優勝するならここ2年くらいしかチャンスはないと思います。けど、そこだけは先生たちに見せてあげたい。もちろん家族に優勝を見せたいのもあります。全日本は今、日本での最高レベルの大会ですし、優勝するのが目標かな、と。掻き立てられる最後の目標はそこかなとは思います」。

笑顔を見せる

大島祐哉という生き方

なぜ大島はいつもこれほどまでに高い目標を掲げて、自らを追い込み、努力できるのだろうか。

写真:大島祐哉(木下グループ)/撮影:田口沙織

生きていて、目標がないのがしんどいですね。ただ淡々と生活して、こなしているのが好きじゃない。何か目標があって、何かに向かってやっていないと。何かしらにベクトルを置きたい。だって、つまらないじゃないですか」。少年のような眼差しで、こちらに問い直してくる。

これが大島祐哉の生き方なのだ。

「だって、目標がないのってつまらないじゃないですか」」

最後に聞いてみた。でも、間違った努力だったらどうするのか、と。

「間違った努力なんてないと思います」。即答だった。

「最大限努力した、でも達成できなかった、それは仕方のないこと。でもやった結果、満足すると思うんです。もし僕が怪我をせずに最後までやって、五輪代表になれなかったなら仕方ないと思えるし、この時の努力が足りなかったと思えたはず。それは僕に限らずみんなそう。だから、目標を立ててそこに対して努力したプロセスはその人の人生にプラスになるんです」。

誰よりも努力してきた大島だからこそ出せる重みのある言葉だった。

「努力した経験は社会に出てもプラスになる」

編集後記

9月、東山高校の宮木監督への取材では、大島の高校時代のエピソードで1時間以上盛り上がった。「大島が頑張らなあかん」。監督のその言葉が印象的だった。

だからこそ今、大島に話を聞きたいと思った。

写真:大島祐哉(木下グループ)/撮影:田口沙織

インタビュー後のTリーグ開幕戦、大島は同級生の吉村真晴にストレート勝ち。12月11日のT.T彩たま戦では、ビクトリーマッチにだけ出場し、チームの勝利を決めた。コートを縦横無尽に駆け回る姿は、人々が注目していないところでも努力してきた証のように思えた。

写真:大島祐哉/撮影:ラリーズ編集部

同世代のヒーローとして大島をずっと見てきた人間からすると、このまま終わってほしくはないし、終わるはずがないと思っている。

彼はいつだって無理難題と言われることに挑戦し、誰も期待していないところから駆け上ってきた男だから。

大島祐哉を信じて、全日本開幕を待て。

写真:大島祐哉(木下グループ)/撮影:田口沙織

取材・文:山下大志(ラリーズ編集部)

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