どうなる今年の長崎県内経済 「成長の種考える好機」 「悩む企業を総力支援」 九州金融機関トップに聞く

 新型コロナウイルス感染が再拡大する中で迎えた2021年の県内経済。長崎市にMICE(コンベンション)施設が開業し、翌年秋の九州新幹線長崎ルート暫定開業に向けた準備が沿線自治体で進む。佐世保市でのカジノを含む統合型リゾート施設(IR)計画は業者が選定される。県内でも展開する九州金融機関トップはこれらをどう受け止め、対応しているのか。十八親和銀行(長崎市)の親会社ふくおかフィナンシャルグループ(FFG、福岡市)の柴戸隆成社長と、長崎銀行(長崎市)の親会社である西日本フィナンシャルホールディングス(FH、福岡市)の谷川浩道社長にそれぞれ聞いた。  

ふくおかフィナンシャルグループ 柴戸隆成社長

企業支援や地域振興などについて語る柴戸社長=福岡市中央区、FFG本社

 -コロナ禍中の企業支援は。
 政府と日銀の強力な経済対策、各銀行による潤沢な融資で、倒産件数は想定より抑えられている。ただ、これがいつまで続くのか読めない。予防的に資金調達した取引先から、2回目の融資申し込みも出始めている。各社は返済が始まるまでに、損益分岐点を下げるなど赤字を出さないよう、さまざまな工夫や努力をしている。FFGは十八と統合した際「長崎のために全力を尽くす」という大テーマを掲げたが、お客さまにとって最大の関心は「自分に何をしてくれるか」。十八親和の役員や行員がニーズを聞き取り、各社に合う多様なサービスを提供していこうとしている。

 -そんな中、インターネット専業の「みんなの銀行」が5月にサービスをスタートさせる。
 FFGは昨年4~9月に窓口利用が1割減り、ネット取引が2割増えた。さらに、銀行に来ない若いデジタルネイティブ世代との接点を持ちたい。十数年後に生産年齢人口の主力メンバーとなる彼らの情報が入ってこないと困る。デジタルバンクは顧客ニーズの変化を素早く把握し、柔軟に対応できる。若者が多い都市圏をターゲットに、サービス提供も営業も全てスマートフォンで行う。また、企業が物を売る際、私たちが黒子役となり、ローンなど銀行機能を組み込ませてビジネス拡大を図る、といったサービスも考えている。採算を急げば小さくまとまりかねないので投資と割り切って施策を打ち、開業3年後の黒字化を目指す。

 -MICE事業を成功させるには。
 コロナ禍で人が動かなくなっているが、この時期こそ成長の種を考える好機。今どう動くかで状況が改善した時に差が出る。FFG主催で(関連ビジネス参入を地元企業に促す)勉強会や、ベンチャーとのマッチングなどいろいろ取り組んでおり、必ず花は開くと思う。

 -IRにどう関わるか。
 計画自体が相当先送りになっており、静観している。これから事態がどう動くか、取引先がどう考えているか、といった点を見極め、長崎の企業や地域の発展につながるなら、私たちも動く。

 -新幹線による地域振興にはどう関わるか。
 十八親和銀行が地元の協議体に入ってプラン作りに参画している。「福岡に主導権を握られ、長崎では何も決められない」と誤解を招かないよう、地元銀行が主体的に動き、FFGがそれをバックアップする形にしている。

 

西日本フィナンシャルホールディングス 谷川浩道社長

キャッシュレス推進による観光客の利便性向上などについて話す谷川社長=福岡市博多区、西日本シティ銀本店別館

 -コロナ禍への対応は。
 昨年はコロナ関連融資に精力を費やし、当面の応急処置はできた。事業者の多くはウィズコロナ時代の道筋に悩んでいる。ビジネスモデルの転換、企業の合併・買収(M&A)、事業承継などさまざまな方法があり、総力を挙げて対応する。チャンスと捉え事業拡大を図る企業にもしっかり支援する。

 -今年の取り組みは。
 デジタル化への対応は大きな課題。昨年12月に傘下の西日本シティ銀行でサービスを開始した法人版プラットフォーム「NCBビジネスステーション」はインターネット上の大規模な営業店との認識だ。デジタルツールを使った法人取引を伸ばしていきたい。

 -昨年10月に十八親和銀行が誕生した。
 県内企業の8割超が新銀行をメインバンクとしている。独占に伴ういろんな弊害はあり得る。競争環境の回復には、われわれがしっかり頑張ること。お客さまにどう応えてもらえるかも相まって対抗力を発揮できると考える。今は頑張れるだけ頑張ろうという段階で、今後の増強は手応え次第。結果的に相手があまりにも強大すぎて歯が立たないとなれば戦線縮小もあり得る。

 -MICE事業の成功に何が必要か。
 国際会議や学術会議などを引っ張るために、まず自治体の努力が必要。福岡市は(都市を売り込む)シティーセールスを懸命にやっており、長年の努力の上にさまざまなものが開かれている。シティーセールスに長崎ゆかりの財界や官界の人たちをもっと戦略的に活用したらどうか。地元のために一肌脱ごうという気持ちを持っている人は多い。きちんと取り組んでいけば必ず効果は出てくる。

 -来年暫定開業する新幹線の効果を高めるには。
 長崎県は九州の中でも最も観光資源に恵まれた地域。コロナで訪日外国人客は当面期待できず、国内客、特に平日に動けるシニア層を増やすのが大事だ。観光客が飲食、買い物、移動など、どこでもキャッシュレスで支払うことができる体制を整備することも重要。コロナでなおさらキャッシュレスが求められており、対応が十分でないならば急ぐべきだ。私たちは長崎でもグループ総合力を生かしてキャッシュレス化を推進している。

 -IRへの関わり方は。
 どうなるか見通しがたい段階であり、推移を見守りたい。ハウステンボスなどの経験がある長崎県は有力な候補になり得ると思う。

 


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