最近、条例でゲームの時間を制限する自治体が出てくるなど、子どものゲームに対する風当たりが強いですが、本当に時間を制限するだけでいいのでしょうか。もっと子どものためになる方法があるのではないか、と角川アスキー総研の遠藤諭氏は警鐘を鳴らします。
ゲームとは何か? あらためて考えてみよう
前回の記事では、「ゲームは悪者」のように説明してしまいました。子どもたちがゲームにばかり夢中になり過ぎる。そのために、みんなと外で遊ぼうとしない、勉強がおろそかになっている、ほかのことに興味がなくなるといったことが起こる。子どもとゲームの永遠のテーマともいえるものです。
ゲームに子どもがはまったときの対処法は、ルールを作って制限するだけではもったいない!
2016年にお台場の日本科学未来館で『GAME ON 〜ゲームってなんでおもしろい〜』という企画展が開催されました。英国にあるヨーロッパ最大の文化施設「バービカンセンター」での展示をもとにした、来場者がゲームをプレイしながらゲームの魅力を知るというものでした。
私は、その日本展での企画・監修を、未来館の内田まほろさんと一緒にやりました。
このとき「ゲームとはなにか?」ということが、私たち関係者の最初の議論になりました。コンピューターのソフトウェアの1ジャンルのようにも見えるけど、なにかもっと特別な存在のように感じます。
そのときに、私なりに出した結論が、「ゲームというのは人間のためのソフト」というものでした。ソフトウェアはいろいろな出力結果を出しますが、ゲームは、プレイする人の「気持ち」や「心」に生ずるものを出力します。
そして、その生ずるものは「おもしろい」が基本になっています。そこで、企画展のタイトルも『GAME ON 〜ゲームってなんでおもしろい〜』となりました。
それでは「おもしろい」の正体はなんなのか?
「こんなとき人はおもしろいと感じる」という事例はいくつも示されています(『Mr.ビーン』のローワン・アトキンソンが解説した『LAUGHING MATTERS: VISUAL COMEDY』などが楽しい)。
しかし、その本当の意味でのメカニズムは解明されていないのかもしれません。それでも1つだけはっきりと言えるのは、その「おもしろい」を生み出す「ゲーム」は、とても大きな可能性をひめていて、人々はその恩恵にあずかるべきだということでした。
子どもがゲームから受け取るものは、子どもによってまるで違う
今では「ゲームが絶対に悪である」と一方的に否定するような言説はほとんど見かけません。思考力や判断力、創造性を養うから、本来はよいものだと書かれることが多いと思います。
ところが、実際に子どもがゲームにハマってしまって困るということは起きます。これについては、すでにいろいろな立場の方々からアドバイスされています。
とくに「ルールを決める」ということは、ファミコンの時代から行われたよい方法のひとつだと思います。ゲームを買ったら、最初に自分でルールを決めさせるのがよいでしょう。ルールをやぶったときにも、単に「叱る」のではなく、適切なペナルティを決めておくことも大切です(3日間ゲーム禁止など)。
どれだけゲームをプレイしたか、 ニンテンドースイッチなどは、本体でそれを確認できるようになっています。プレイできる時間や機能を制限することもできます。また、ゲーム機を見なくても、「Nintendo みまもり Switch」というスマホアプリからも、確認できたりします。
ゲームをやるのは家族も一緒にいるリビングにすることや、積極的に親子でプレイすることもよい結果に導くことになるでしょう。ゲーム以外のものを教えてあげることも大切です。子どもはゲームだけを楽しむわけではなく、意外なほど素朴な、たとえば昔の遊びでも覚えれば、盛り上がったりしますからね。
このようなアドバイスがされていて、たしかにこれらは、日本のゲームと子どものについての対処の仕方として正しいのだと思います。
しかし、まわりを見ていていると、そればかりじゃないと思うのです。さきほど触れた「ゲームの恩恵にあずかる」ことにもならないと感じてしまいます。どの家庭にもあてはまるように引いているラインが、そう感じさせるのかもしれません。
たとえば、ゲームに素養があるのなら「よいゲームをプレゼントする」というのはかなりよいやり方だと思います。「よし、うちの子どもにこれをやらせるゾ」なんてやっているお父さんを、何人も知っています。自信をもって最新の「遊び」であるゲームを示されるのは、子どもにとってもうれしいはずです。
ニンテンドースイッチのストアを見ていくだけでも、画面や操作性もすぐれ、ゲームでしか表現できない、すばらしいゲームをいくつも目にするはずです(もちろん同じことはほかのプラットフォームでもいえるのですが)。ここには新しい才能が世界からも集まっていて、それを見つけて触れることに価値がある。
作る、考えるゲームはもちろんですが、たとえば、ロールプレイングゲームを最後までやりとげることは、小説やドラマとも違う感動することを教えてくれるはずです。そんなとき、ゲームをプレイしているたくさんの子どもたちの中に「ゲームを作ってみたい」という子どもが出てきます。
私のいるネットデジタルの業界で成功している人には、子どものころに「ゲームからプログラミングに興味をもった」という人が少なくありません。本当に多いのですが、たとえば、VR(バーチャルリアリティ)の第一人者である株式会社エクシヴィ代表取締役の近藤義仁(GOROman)氏は、2020年に参加していただいた座談会で、まさにそのように述べていました。
興味深いのは、同級生はみんなファミコンを買ってもらったけど、自分は父親がMSXなどパソコンを買ってきてしまったという人の話も聞きます。子どもにとっては、いわゆる「これじゃないファミコン」で、ちょっとダメなゲームをするだけ。
ファミコンとパソコンの違いは、後者がすぐにプログラミングを始められることです(正確にはファミコンにも「ファミリーベーシック」というカートリッジとキーボードのセットがあったのですが、別途購入する必要がありました)。いまなら「スクラッチ」や「ビスケット」など、優れたプログラミング言語がいくつも無料で提供されています。
ただし、「Ruby」という、世界中で使われているプログラミング言語を作られたまつもとゆきひろさんも言っていますが、必ずしも環境によってプログラミングができるようになるわけではないと思います。向いている人と、そうでない人がいるというわけです。
その子がどんなことに興味をもち、どんなことに向いているか、どこまでがんばれるか、あるいは創意工夫が得意なのかなど。それによって、ひたすらルール徹底なのか、新しいゲームを与えるのか、プログラミングの入り口を教えてあげるのか、対処が違ってくるはずなのです。
- ゲームの才能が見えたら「よいゲーム」を与える
- 「ゲームを作りたい」と言ったら、プログラミングできる環境を与える(作ってみたくないか? と聞いてみるのもいい)
ほかにもあると思います。
プログラミングの専門家でも答えられない「どうして?」が電話相談に
ところで、ここまでお話したことと関連しそうなことが、2020年8月9日(日)に、NHKラジオで放送の「子ども科学電話相談」で起きました。コロナ禍でたいへんなことになった年だったわけですが『夏休み子ども科学電話相談「昆虫」「鳥」「ロボットAI」「プログラミング」』と題されたそれに、東京都の小学2年生おくむらやねさん(以下、あやねさん)から、次のような質問が寄せられたのです。
「どうしてプログラミングソフト《スクラッチ》でブロックを置くと、キャラクターが動くのですか?」
これ、少しでもプログラミングをしている人は驚いてしまう内容だと思います。たまたま放送を聞いていた私も、イスから転げ落ちそうになってしまいました。世界中の子どもプログラマーがお世話になっているプログラミング言語のスクラッチです。私が関わっている全国小中学生プログラミング大会でも、だいたい半分がスクラッチ単体で動く作品。そのスクラッチ本体の動作原理に目を向けたというのがすごい。
ゲームを遊んでいて「ゲームを作ってみたい」という子が出てくると書きましたが、そのゲームを作れちゃうスクラッチの「中身はどうなっとるんじゃい」というわけです。この質問に、石井かおるアナウンサー(以下、石井アナ)と「プログラミング」担当の岡嶋裕史先生(国際情報学部教授。以下、岡島せんせい)とのやりとりは、次のようなものでした。
石井アナ つぎの質問です。東京都のおともだちからです。お名前と学年をおしえてください。
あやねさん おくむらあやねです。2年生です。
石井アナ 小学2年生のおくむらあやねさん。どんな質問ですか?
あやねさん どうしてプログラミングはスクラッチのブロックをおくとキャラクターが動くのですか?
石井アナ ん? どうしてプログラミングはスクラッチのブロックなどを? えっ?
あやねさん おくとキャラクターが動くのですか?
石井アナ おくとキャラクターが動くのですか? えー? はいっ。これは岡島せんせいに聞いてみましょう。岡島せんせい!
岡島せんせい はい。
石井アナ あのぉ。わたくし、すいません不勉強で、質問自体をあまりよく理解できていないのですけど。
岡島せんせい おっとぉ。
石井アナ プログラミングはスクラッチのブロックをおくと、キャラクターが動く。スクラッチのブロックというものの説明していただきながら、解説していただけますでしょうか?
岡島せんせい おくむらさん、はじめまして。
あやねさん よろしくお願いしまーす。
これは、私がせっせとメモったものでライブ感があるのでこちらを紹介していますが、全文がNHKの「 」というサイトに、少し整理して転載されていました。なので詳しくは、そちらを読んでもらうとよいとのですが、これに回答する岡島せんせいも冷や汗ものだったのではないでしょうか? 石井アナのリアクションも楽しい。
いきなりこの質問がきて、きちんと答えられる学校やプログラミングスクールの先生はあまりいないと思います。
とはいえ岡島せんせいが、苦し紛れといえど、さすがにそのとおりではあるという答えを出していました。質問者の小学2年生のおくむらあやねさんは、電話を切ったあと「なんとなく煙に巻かれた?」という気分になっていたのではないかという気もしますが。
この子は、将来どんなことをしてくれるのか、その探求心をどんどん伸ばしてあげるべきだと思います。
これまでの【遠藤諭の子どもプログラミング道】は