折れた方が無難?

 ことわざに〈商人(あきんど)とびょうぶは曲がらねば立たぬ〉というのがある。腰を曲げつつ客に向かわないと商いは成り立たない。商売に限らず、腰を折りつつ相手の意向に応じる姿勢は、どんな営みにも時に求められるものだろう▲腰を曲げたといっても、謙虚さの表れとは思えない。新型コロナウイルスに対応する法改正案について、与野党は修正することで合意し、審議入りした。入院を拒んだ人に刑事罰を定めようとした与党が折れたという▲刑事罰や懲役刑まで持ち出して国民を“けん制”することに異論があるのも当然だろう。専門家にも慎重論が強かったらしい▲政府はそれでも法案の提出を急いだ。その揚げ句、野党との話し合いがこじれ、法の成立が滞れば元も子もないし、またも「後手」のそしりを受ける。その上、与党議員の「銀座のクラブ巡り」問題もある▲ここは折れた方が無難…と与党は腰を曲げたようだが、そもそも刑事罰まで定める必要がどこにあったか。うんと罰則を重くすれば国民も言うことを聞く。そう考えたとすれば軽率の域を超える▲〈商人のうそは神もお許し〉。程度の別はあっても、ことわざでは商談の「はったり」は許されるらしい。国政で、刑事罰を出しては引っ込めるようなはったり、駆け引きが許されるものではあるまい。

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