死への思いを川柳に託して表現 「いちばん苦労したところ」 「痛くない死に方」高橋伴明監督

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長尾和宏のベストセラー「痛くない死に方」「痛い在宅医」を原作とした映画「痛くない死に方」の公開を前に、監督・脚本を務めた高橋伴明のインタビューが公開された。

公開されたのは、『映画「痛くない死に方」読本』(2月18日発売、ブックマン社、定価1100円+税)に掲載されている、監督・脚本を手がけた高橋伴明のオフィシャルインタビューの一部。発想、こだわった部分、出演者などについて語っている。あわせて、読本に掲載されている、高橋監督による「終末川柳」の一部も公開された。

こだわった部分について高橋監督は、「”こういう死に方をしたい”という自身の思いが根底にあります。けれどもドーンと重い映画には最終的にしたくなかった。これは人に見せるための映画だということを考えたときに、〝川柳モドキ〟が浮かんだんです。監督って、映画表現の中で思いを言いたがるものじゃないですか。それをやっていると映画は終わらないので、ここはこれを言いたいんだよということを、後半に登場する、宇崎竜童演じる本多彰の川柳で表現したらいいと。これがいちばん苦労したところでしょう」と語っている。

「痛くない死に方」は、在宅医療の専門家である長尾和宏のベストセラーを原作に、仕事に追われて家庭崩壊の危機に陥りながらも、大病院でなく在宅医だからこそできる医療を模索する医師の成長物語。主人公の医師・河田仁を柄本佑が演じ、坂井真紀、奥田瑛二、余貴美子、宇崎竜童、大谷直子らが脇を固めている。監督・脚本は、「BOX 袴田事件 命とは」などを手がけた高橋伴明が務めている。

【高橋伴明監督 インタビュー】

Q. 高橋監督の作品は、今までも死の匂いがする作品は多々ありました。しかし、ここまでストレートに「死に方」をテーマに選ばれたのは今作が初めてですね。映画監督としての、社会的な責務のような思いがあったのでしょうか。

責務と言うと大そうなことになると思うのですが、これは本当にひとつの提案であって。何も押し付けるつもりはないんです。観た人がどう受け止めるのかという。誰しも、「死」というものにこの先必ず、関わるわけじゃないですか。だから今作は、ひとつの提案、ひとつの役割になったらいいなと。

Q. 映画の前半は「痛い在宅医」という原作があり、後半は監督の創作による物語でしたが、創作の部分の発想は、どういうところから生まれてきたのでしょうか。

それは原作を勝手に読み取って、長尾さんが言いたいのはこういうことなんじゃないの? というところでの発想です。監督商売というのは、想像力。あとはそれに自分の気分を乗っけていく。他の人はどうか知りませんが、自分はそうやってストーリーを作っていきます。

Q. 台本に描写する中で特にこだわったところはありますか。

それはやっぱり、「こういう死に方をしたい」という自身の思いが根底にあります。けれどもドーンと重い映画には最終的にしたくなかった。これは人に見せるための映画だということを考えたときに、〝川柳モドキ〟が浮かんだんです。
監督って、映画表現の中で思いを言いたがるものじゃないですか。それをやっていると映画は終わらないので、ここはこれを言いたいんだよということを、後半に登場する、宇崎竜童演じる本多彰の川柳で表現したらいいと。これがいちばん苦労したところでしょう。

Q. ここまで長い分数を割いてリアルに人の死に様を描いている作品はかなり珍しいと思います。特に前半の下元史朗さん演じる敏夫の最期は壮絶でした。どうしてこれほど死について、ある意味生々しく描こうと思われたのでしょうか。

前半の死のシーンをしっかりとやっておかないと、後半部分に繋げられない。河田の成長を描く上で、前半の死に様や、身近に寄り添う人の心の痛み、その根底にある医療の負の部分をさらけ出す必要がありました。
演じる側も、あんな紙おむつ姿でひたすら苦しむ役なんて、たいていの俳優なら拒否しますよ。それを下元史朗は、俺が伝えた以上に演じてくれましたよね。
下元とはピンク映画時代から40年以上の付き合いがあって、俺は俳優として高く評価しているんです。

Q. 娘の智美役を演じた坂井真紀さんが、河田医師に怒りをぶつける姿も印象的でした。

苦しみ、悶える父を看取った智美が、河田に「私の心が痛いんです」と怒りをぶつける。このシーンがまさに、映画の肝でした。
智美を演じた坂井さんとは今作が初めてで、役に関して俺からあれこれ伝えることはなかったけれど、「分かりやすい芝居は嫌いなんだよね」みたいなことをチラッと話したと思います。それもあって、彼女は智美の複雑な内面の部分を自分なりに探り、表現していたと思うんです。その抑えた演技の中にも、最後の怒りまで持っていく流れがあって、彼女の表情を見ていたいという興味がすごくありましたね。

Q. 後半、本多彰の妻・しぐれを演じた大谷直子さんの存在感もさすがでした。

直子、良かったね。彼女とも今回の作品が初めてになるんです。今まで仕事をしたことはないけれど昔からの知り合いで、いつかは仕事をしてみたいと思っていました。あいつの人生もチョロっとは知っているし……ああいう、歳をとったからこその人生の機微みたいなものを演じてくれるという確信があった。それに彼女自身が、がんという病と向き合ってきたからね。〝私は死ぬまで生きてやる〟というような彼女独特の姿勢が、今回のしぐれ役にハマりました。

Q. 図らずもこの『痛くない死に方』は、2020年の夏に公開予定でしたが、コロナ禍で延期となりました。日本人の死生観が変わる過程の中での上映になると思います。これは、映画を製作していた時には予期せぬ事態でしたね。

コロナというのは、「死を考える」というよりは「生き方を考える」ということになったんじゃないかな。今までをどう生きてきたかということをそれぞれが考えるための、ある種の啓示みたいなものなんじゃないかなと俺は思っていますけどね。

【終末川柳】高橋伴明作

痛みなく
悔いなき最期
平穏死

延命の
最期は誰も
管だらけ

延命の
家族愛とは
エゴイズム

尊厳を
遠くの親戚
邪魔をする

自尊心
紙のおむつが
踏み潰す

痛くない死に方
2月20日(土)よりシネスイッチ銀座ほかにて公開
配給:渋谷プロダクション
©「痛くない死に方」製作委員会

© 合同会社シングルライン