春季キャンプで一番過酷なポジションは? 多忙な1日は「ランチの時間を取れなくて」

巨人・菅野智之、ソフトバンク・甲斐拓也、広島・菊池涼介(左から)【写真:荒川祐史】

ランチを取れずにおにぎりをほおばり、夕食にも間に合わない日々

NPB12球団は2月1日にいよいよキャンプイン。今年はコロナ禍で軒並み無観客となる中、選手たちは3月26日の公式戦開幕へ向け、レベルアップのためキツイ練習にも耐えていくことになる。「キャンプではあらゆるポジションの中で、キャッチャーが特に過酷」と語るのは、ヤクルト、日本ハム、阪神、横浜(現DeNA)で21年間にわたって捕手として活躍した野球評論家の野口寿浩氏。その実態を聞いた。

「基本的に、キャンプでグラウンドにいる時間が1番長いのがキャッチャー。若手の場合は特にそうです」。こう訴える野口氏自身は現役時代、千葉・習志野高からヤクルト入団後、3年目の1992年から毎年、米アリゾナ州ユマでの春季キャンプに参加した。

全体練習開始は午前10時だったが、捕手陣は8時半からウォーミングアップを開始。9時から「早出練習」として約1時間、元メジャーリーガー捕手のパット・コラレス臨時コーチから、スローイングの足の運び、ワンバウンドの投球を止める際の体勢、キャッチャーフライの捕り方、バント処理の仕方に至るまで、基本的動作を教わった。

午前中はシートノックなど全体的な守備練習が主。ランチを挟み、午後から野手陣のフリー打撃が始まると、捕手陣の動きはにわかにせわしなくなる。他の野手はローテーションを組み、ティー打撃、フリー打撃、走塁練習、守備練習と順番に消化していく。しかし捕手だけは、ブルペンに移動して投手陣の球を捕る作業が加わるため、走塁練習が後回しになり、たいがい若手野手の「居残り特打」の時間にずれ込むことになる。捕手陣はその後に、居残り特守、特打、ウエートトレーニングなどが残っている。

「データの分析は、いったん始めると止まらなくなって日付を跨いでしまうことも…」

「居残り特守では、早出でコラレス臨時コーチから教わったことを、体にしみ込むまで延々と繰り返します。始まる時間が非常に遅くなる上、短くても1時間で終わることはなかった」と野口氏は証言。「とにかくキャンプ期間中、キャッチャーはやる事が多くて忙しい。ランチの時間を取れなくて、おにぎりをキープしてもらって、あとで空いた時間にほおばる日もありました。宿舎ホテルでの夕食は午後6時開始でしたが、間に合ったのは、3週間のユマキャンプ中1~2回しかありませんでした」と過酷なスケジュールを振り返る。

「僕は当時20代前半で体力があったので、まだよかった。40~41歳で1軍バッテリーコーチ兼捕手だった頃の八重樫幸雄さんは大変だったと思います」とも。

これで終わりではない。野村克也監督時代には、休日前日以外は宿舎で毎日、全員参加の野球勉強会が1時間以上。さらに捕手陣は個々にスコアラーから前年までのデータをもらい、自室で分析に取り組んだ。その年のリードに生かすために、これも欠かせない時間だった。

「データの分析は、いったん始めると止まらなくなって、日付を跨いでしまうこともしばしば。外食に出かける余裕はほとんどなく、ユマキャンプの場合は、宿舎裏のガソリンスタンドに併設されたコンビニからビールを買って来て飲むのが精いっぱいでした」と野口氏は思い返す。

そうでなくても、重いレガース、マスクを装着しなければならないキャッチャーは、損な役回りにも見える。しかし、だからこそ、「グラウンド上の監督」としてチームにとって主導的役割を果たすことができるのだろう。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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