キックオフ<上> ぶれずに個の力重視 名将の目 「はやり廃り」に踊らされない 高校サッカー 100回目の冬へ

今も現場で指揮を執り続ける長崎総合科学大付の小嶺監督=大村市、古賀島スポーツ広場

 1月11日、成人の日。長崎総合科学大付の寮。小嶺忠敏は生徒たちの横で、テレビ中継を見詰めていた。第99回全国高校サッカー選手権の決勝戦。山梨学院と青森山田が一進一退の死闘を繰り広げていた。
 選手権の6回をはじめ、全国制覇17回。言わずと知れた高校サッカー界の名将だ。75歳になった現在、以前のような豪放さは和らいだ印象だが、戦況を見詰める眼光は変わらず鋭い。
 ドリブルでボールを奪われた選手が間髪入れずに取り返しに行くと「おい、見ていたか。おまえもあのくらい食らいつかんと」と孫ほども年の離れた教え子に説く。青森山田がFKを得た場面では「この時間にファウルしちゃいかん」とつぶやきながら、手元の紙にペンを走らせた。
 今冬、選手権に小嶺の姿はなかった。長総大付は県の決勝で敗れ、5年連続出場を断たれていた。
 「年末年始に暇なのは良くないね。仕事がある方がよっぽどいい」。そう大きく口を開けて笑う表情には、どうやっても隠しきれない悔しさがにじむ。指導者生活53年目。今も生徒と寮で寝泊まりし、早朝練習に欠かさず顔を出す。教育者としての情熱、勝利への執念は冷めてはいない。
 サッカーの世界は「はやり廃り」が激しい。個の力を重視する小嶺の戦術は、国見が黄金期を築いた際に高く評価されたが、パスサッカーが主流になると時代遅れとささやかれるようになった。
 だが、あらためて今冬の選手権を振り返ってみると、どうだろうか。上位チームは組織力もさることながら、目を見張ったのは「個」で局面を打開できる選手だった。脚光を浴びたロングスローも、世に知らしめたのは第66回大会で国見が初優勝した際の原田武男(現V・ファーレン長崎U-18監督)だと小嶺は言う。進化を繰り返し、今のトレンドはもう一度、小嶺のスタイルに近づいているようにも映る。
 「バルセロナなら、そりゃあいいサッカーができる。でも、高校生だから。新しい情報に飛びついて踊らされるようではいかんよ」
 延長戦の途中。小嶺は試合の行方を見届けることなく席を立った。「やっぱり上に行くチームは個性を持っとるよね」。重く、説得力がある言葉だった。
 「練習始めるぞ」。程なく、コーチの声が響いた。丸刈りの少年たちが、寒風吹きすさぶグラウンドに飛び出した。
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 全国高校サッカー選手権は2021年度に100回大会を迎える。本番までの約1年間、高校サッカーにスポットを当てた新企画「100回目の冬へ」を展開する。第1弾は連載「キックオフ」。県内のチームの現状を探った。=敬称略=


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