21年版九州経済白書 「コロナショック」 DXと地方分散促進 デジタル人材 育てる取り組みを

新型コロナ拡大後におけるDXに向けた取り組み実績と予定(従業員規模別)

 九州経済調査協会(九経調、福岡市)は1日、新型コロナウイルス感染拡大による九州経済への影響や企業活動の変化を分析した、2021年版九州経済白書「コロナショックと九州経済」を発行した。コロナ禍が長期化する中、デジタル技術で事業を変革する「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の推進や地方分散の動きが促進されていると指摘。地域全体でデジタル人材を育てる取り組みや、受け皿となり得るオフィスの整備、事業継続計画(BCP)策定などが求められるとした。
 九州・沖縄、山口の9県の企業803社(本県57社)から回答を得たアンケートでは、約8割が感染拡大で業績に「悪影響がある」と回答。感染拡大を受けた取り組みとして、中長期の経営計画の見直しや事業の多角化が挙がった。オンラインでのサービス提供など、すでに新事業に乗り出した企業は2割あった。一例として、広告代理店アジャスト(長崎市)と長崎大がスマートフォンで現金自動預払機(ATM)などを操作できるシステムを開発したことを紹介している。
 コロナ禍で改めて関心が高まっているDXには、アンケート回答企業の約半数が取り組んでいるとした。感染拡大後にDXを進める目的は「売上高や利益の維持・増加」が最多で、「革新的な生産性向上」「新製品・サービスの創出」などが続いたとし、「抜本的なビジネスの見直しや新たな価値を作ろうとする姿勢がうかがえる」と分析。DX実践企業には、経営層がIT(情報技術)業務を理解し、他社との協業に積極的といった特徴が見られた。課題としては「知識・情報・ノウハウ不足」や「費用対効果が不明」が多く、デジタル人材の育成、ベンチャー企業との協業などを提言した。
 感染拡大下でリモートワークが一気に普及し、本社機能の地方立地を期待する声に対し、九経調が他団体と共同実施した東京圏大企業対象のアンケートでは、本社機能の移転を検討する割合はわずかだった。しかし、白書は一極集中のリスクが顕在化し、働く場所の多様化で分散の動きは進むと予測。九州地域は受け皿となるべく誘致活動の拡大やオフィス環境の整備などが求められるとした。
 製造業では、製造拠点や調達先の分散化の動きが強まりつつあり、九州地域の企業にとって取引先開拓のチャンスだとし、BCP策定などリスク管理の重要性を指摘。大都市圏のクリエーティブな人材と地域とのコラボレーションが生まれるような魅力的な場が形成されれば、累積的な人材誘致も期待できるとした。
 近年の研究開発拠点の誘致例として、県が誘致活動を積極的に行い進出が相次ぐ本県に触れ、離島や交通不便地がある「課題の先進地」で解決策を実証する場であり、大学での人材育成が盛んなことが強みだと紹介した。

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