大坂なおみ 爆騰しすぎた商品価値 全仏OP欠場は〝一石二鳥〟

注目度が上がる一方の大坂(ロイター=USA TODAY Sports)

いまや〝時の人〟となったヒロインが下した決断の真意は――。テニスの全米オープン女子シングルスで劇的Vを果たし、一連の人種差別抗議活動で世界中から称賛された世界ランキング3位の大坂なおみ(22=日清食品)が、次戦の4大大会「全仏オープン」(27日開幕、パリ)を欠場すると発表。痛めている左太もも裏の状態が完璧ではないことを理由に挙げたが、複数の関係者によると、陣営の「チーム大坂」が全仏回避に至った背景にはもう一つの思惑もあったという。

大坂は自身のツイッターに英語と日本語でそれぞれメッセージを更新。欠場の理由を「2つの大会の日程が近いため、体をクレーコートに向けて整える時間が足りないと判断しました」とした。ここでいう「体」とは、ツアー再開直後の大会のウエスタン&サザン・オープンで痛めた左太もも裏。英語版にはきっちりと「ハムストリング(もも裏の筋肉の総称)」と書かれている。

先の全米オープンでは1回戦から決勝まで全試合で左太ももをテーピングで固定。本人は「予防のため」と話していたが、完璧な状態ではない。3度目の4大大会優勝を成し遂げた大坂はまだ22歳。この先、何度も4大大会を勝つ可能性を秘めているだけに、リスクを払って目先の試合を優先させることは得策でないだろう。DAZNテニス中継解説者の佐藤武文氏(49)も「チームがいい判断をしたと思います。今、磨きをかけなきゃいけないのはフィットネス。ケガによって費やすべき時間を取られたくないと考えたのでしょう」と話す。

全仏のサーフェス(コートの表面)が赤土の「クレーコート」というのも大きな要因だ。ハードコートより球足が遅く、ボールがはねるクレーは大坂自身も苦手意識を持っている。新型コロナウイルス禍の中断明けから11連勝中(棄権を除く)だが、全て得意のハードコート。最後の敗戦は中断前にクレーコートで行われた2月の国別対抗戦フェド杯だ。この時は世界ランキング78位の格下に惨敗して号泣した。

日本テニス協会の土橋登志久強化本部長(53)も「得意ではないクレーコートで勝たなきゃいけないプレッシャーがあったのでは」と分析。佐藤氏は「クレーは不意に滑る場合があり、そうなると脚に負担がかかる。全仏の本番まで2週間くらい時間があれば調整できるし、極端な話、前哨戦なら負けてもいい。やはりぶっつけ本番というのは大きいですね」と説明する。

一方で、もう一つの「真意」を口にするテニス関係者もいる。

「大坂選手は今、一連の抗議活動によって商品価値がマックスですよね。当然、全仏では大きな期待を背負う。そんな状態で1回戦負けでもしたら…。下手に出てパブリックイメージを傷つけるより、出ないほうがいいって判断したのでは」

周知の通り、大坂は全米オープンで「BLACK LIVES MATTER(黒人の命も大事だ)」運動の一環として黒人被害者の名前入りマスクを着用し、人種差別抗議のプロパガンダを展開した。当初は賛否両論が飛び交ったが、優勝という結果を出したことで、いまや大坂の〝株価〟は最高値に。大会後には殿堂入り資格も満たした。別の関係者は「この世界は勝ってナンボ。目立ったことをして負ければ叩かれる。そういう意味でもリスク回避は正解でしょう」と補足する。

あくまで欠場の主な理由はケガとクレーコート。とはいえ、ここまで世間の評価が高くなると、怖くなるのが人間というもの。そんな戸惑いが欠場の裏に潜んでいたのだろうか。

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