カネミ油症次世代調査 油症認定の基準見直し 研究班長が方針

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オンライン取材に応じ、早期のカネミ油症次世代救済を目指す考えを語った辻班長

 カネミ油症患者の子ら「次世代被害者」を対象に、国の研究費を受けて影響調査を今後実施する全国油症治療研究班(事務局・九州大)の辻学班長(44)が5日までに、長崎新聞社の単独インタビューに応じた。「次世代で際立つ病状などを統計的に把握し油症認定の基準に加えていく」とし、積極的に早期救済を目指す考えを示した。来年1月に調査結果を中間報告する予定。油症の主因ダイオキシン類が次世代に与える長期的影響を調べた研究は世界的にも例がないという。
 辻氏は皮膚科学が専門で昨年4月、同班長に就任。次世代救済に関する法律がない点を指摘し「研究班として救済につながる医学的根拠はいっぱい出していこうと思うが、実際に次世代の認定につなげるには政治的解決も必要になるのではないか」と述べた。前班長は、次世代影響を調べるには数十年の期間が必要との認識を示していたが、新班長の下で取り組みは加速する見通しだ。
 調査では、原因の汚染油を直接食べた認定患者の子(2世)を対象に、出生時から現在までの病状など情報を収集。一般的な人と比べて差があるかなど、統計的に解析する。
 短期的には、先天性奇形などダイオキシン被害に特徴的な症状や次世代に高確率で現れている症状から優先して、油症認定の基準に加えられないか検討する。長期的には、生活習慣病など一般的によく見られる病気について、発生割合や経過を比較分析する。
 同班は6月にも、研究者らでつくる「油症対策委員会」の会議で調査票の内容を決定し、調査協力の同意を得た次世代被害者らに発送する見通し。
 辻氏は「ダイオキシン中毒について、成人した次世代がどんな病気をしてきたかを調べた先行研究はなく、慢性的影響は全く分からない」と説明。油症発覚から半世紀以上が経過した中、「次世代影響の把握は救済を考える上で非常に重要」と語った。

◆「まずは際立った症状把握」 辻学・全国油症治療研究班長インタビュー

 カネミ油症次世代被害者の影響調査を始める全国油症治療研究班の辻学班長(44)が、長崎新聞社のインタビューに応じ、調査方針や意義を語った。

 -調査を始める経緯は。
 現在の油症認定は、血中のダイオキシン類パターンや濃度の高さが基準になるが、次世代には血中濃度が低い人がいて、今の基準が当てはまらない可能性がある。次世代への影響はセンシティブな問題で、被害者には(調査実施に)温度差もあるが、YSC(カネミ油症被害者支援センター)の働き掛けで調査に前向きな被害者が増え、具体的に動きだした。

 -YSCが昨年実施した次世代49人の調査への受け止めは。
 次世代がとても苦しんでいることがすごく伝わる。しかしアンケートなので主観を書ける一方、客観的、医学的な裏付けにはなっていない。研究班では当事者の主観性も取り入れつつ客観性のある調査を進めたい。

 -前班長は次世代調査に長期間かかると発言した。
 病気の種類によって、実態把握に時間がかかるものと、比較的短期間で分かるものがある。例えば生まれた頃からの病気は調査ですぐに分かる一方、成人になるまで調べ続けないと発症するか分からない病気もある。長く調査するのも大事だが、早期の救済を考えると、比較的短期間で把握できる病気から調査したい。

 -どんな調査結果であれば認定の根拠となるか。
 次世代に多い病気を調べ、一般人口と比べてどのくらいの確率で多く出ているか統計的に解析する。ある病気が高確率で起きているとの結論が導き出せれば(その病気が)認定の基準項目になる可能性がある。また、統計的に(一般との)差がなくても継続的に調査していくと差が開いてくる場合がある。

 -油症の症状は多岐にわたり、人によって異なる。
 すごく難しいところ。ただ線引きが難しい症状よりも、まずは際立ったところを押さえることが大切。

 -有効なデータを取るために必要な人数は。
 次世代の病気の実態が分からない中、目標値は設定できない。次世代のうち既に油症認定されている約50人のデータは(認定患者対象に国が毎年実施する)健康実態調査で把握できる。それ以外の次世代もできるだけ多く参加してほしいが、油症は家庭の問題でもあるので(協力要請は)慎重にしていく。

 -認定患者の孫(3世)は調査対象にならないか。
 まず2世の問題を把握、解決し3世はそこからだ。
 世界的にも先行研究がないので、慎重に調べる。(ダイオキシンの次世代被害を)動物で調べた研究はあるが、人間について長期間の研究は見つからない。(ベトナムの枯れ葉剤によるダイオキシン被害も)子どもの頃しか調べられておらず、中高年の次世代影響は分かっていない。

 -胎盤や母乳を通じた母から子への影響は指摘されるが、父からの影響は。
 父親だけが認定患者の場合でも調査が必要。もし父の精子に異常があれば影響は考えられる。

 【略歴】つじ・がく 福岡県出身。2002年に鳥取大医学部を卒業し、九州大学病院に皮膚科医として勤務。07年から九州大大学院で、体内のダイオキシン類に反応する受容体「AhR」について研究。14年から同病院油症ダイオキシン研究診療センター、18年から全国油症治療研究班に所属。20年4月から同班長。