大坂なおみ〝マスク七変化〟は今回限りか 本来ならメッセージ発信は禁止事項

1回戦とは違うマスクで登場した大坂(ロイター=USA TODAY Sports)

【ニューヨーク2日(日本時間3日)発】やるなら今しかない。テニスの4大大会「全米オープン」に出場中の女子世界ランキング9位、大坂なおみ(22=日清食品)がさらなる注目を浴びている。コートでは5大会連続のシングルス3回戦進出を果たして絶好調だが、コート外でも人種差別の〝抗議マスク〟が連日クローズアップされ、話題の的だ。決勝まで7種類のマスク披露を宣言しているが、実はこのアピールも今大会が「ラスト」になるかもしれない。どういうことか?

圧倒的だった。2回戦(2日)では世界ランキング74位のカミラ・ジョルジ(28=イタリア)に対し、強力なサーブとそつのないプレーで主導権を握り、6―1、6―2のストレートで完勝。2年前の全米女王は意気揚々と3回戦進出を果たした。

だが、世間の関心はビッグサーブでもなければ、左太もものテーピングでもない。人種差別に抗議するため、決勝までの7試合分を用意した黒マスクだ。2回戦でも大坂は一人の名前をマスクに記してセンターコートに登場した。「エリジャ・マクレーン」。昨年8月、警官による取り調べの後に死亡した黒人男性の名だ。1回戦では今年3月、警官に射殺された黒人女性、ブレオナ・テーラーさんの名前が書かれたマスクを着用。大坂の入場時に「次は誰の名前?」とザワつくのがお決まりの展開となってきた。

これについて大坂は「世界中のみんなが見ているから、もっとこの問題を知ってほしい。この機会に関心を持ってほしい」と主張。米経済誌「フォーブス」が発表した長者番付では女子アスリート史上最高の約40億円で1位となり、いまや身につけたアイテムも人気が出るなどファッション界にも影響を与えている。

どうせ注目されるなら声を上げよう――。新型コロナウイルス禍に思い立ち、シャイな性格を封印。前哨戦の「ウエスタン&サザン・オープン」ではボイコット騒動も起こし、同大会の準決勝では「BLACK LIVES MATTER(BLM=黒人の命も大事だ)」のTシャツを着用してアピールした。特に世界が注目する4大大会では主張がより広く伝わるため、今回のマスクへの熱の入れようは半端ではない。ただ、今後もこのような抗議活動を行えるかというと、そう簡単ではない。

基本的に「全豪オープン」「全仏オープン」「ウィンブルドン選手権」「全米オープン」の4大大会は、特定の思想やメッセージが書かれたものを身につけてはいけないとの規則がある。当然、五輪憲章でも禁止されており、来夏に延期された東京五輪でもNGだ。以前、全仏オープン主催者は奇抜なウエアを着たセリーナ・ウィリアムズ(38=米国)に「度を超えている」と指摘し、禁止にしたこともある。

今大会では、実は特例が設けられており、全米テニス協会(USTA)の大会公式サイトでは「今年はBLM運動が再燃したことで、我々の取り組みは大きく緊急性を帯びてきた。USTAはいかなる人種差別や不正にも揺るぎなく立ち向かう」とうたわれ、選手の着衣の表現に関しては制限を取っ払っていたのだ。

一連の抗議行動を後押しする〝大坂ルール〟と言えそうだが、前述の通り27日開幕の全仏オープンでは、今回のような過度なプロパガンダはできないだろう。全米オープンにしても今年だけの特例であり、来年から禁止となる可能性がある。大坂の目的は注目を利用することだが、プレー以外にこれだけ視線が注がれることに二の足を踏むツアー主催者がいても不思議ではない。

コート上をにぎわす〝マスク七変化〟は、今大会が最初で最後になりそう。大坂は「優勝したいと考えるのは、やめるようにした。自分で大きな重圧を背負うことになってしまうので」と話すが、決勝で〝最後のアピール〟をするためにも負けるわけにはいかない。

【3回戦相手はテニス界屈指の美女プレーヤー】大坂は4日(日本時間5日)の3回戦で世界137位のマルタ・コスチュク(18=ウクライナ)と対戦する。テニス界屈指の美女プレーヤーとして名高く、インスタグラムは約6万3000人のフォロワー数を誇り、水着姿なども公開。男性ファンから絶大な人気を誇っている。

その実力も折り紙付きだ。2017年の全豪オープン・ジュニアでは第1シードを破って優勝し、18年全豪オープンでは15歳ながら3回戦に進出。16歳で世界1位になったマルチナ・ヒンギス(スイス)以来の衝撃として話題となった。

初対戦となる大坂は「いろいろと調べないといけない。今はたくさんの若い選手たちが出てきているから」と警戒するが、4大大会の3回戦は過去4勝9敗という〝鬼門〟だ。次世代のスター候補を相手に第一関門を突破できるか。

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