「内輪での確信が生まれると、理性にすら勝ってしまう」 「私は確信する」ランボー監督 作品のテーマ語る

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”ヒッチコック狂による犯罪”として世間を騒がせた、フランスで実際に起こった“ヴィギエ事件”を映画化した「私は確信する」(本日劇場公開)から、アントワーヌ・ランボー監督のオフィシャル・インタビューが公開された。

製作のきっかけについて聞かれたランボー監督は、ジャック・ヴィギエ事件を2度傍聴し、「フランスの司法の不合理さと、不確かな情報を元に告発されてしまった家族の苦難の両方が炙り出されるのを目撃」したことと語り、「現実を疑いながら、考えを述べていくのが自分にとっての映画の役割だと思っています」と、自身の考えを述べている。

作品のテーマについては、「一度、内輪での確信が生まれると、理性にすら勝ってしまうのです。きちんと道筋がある確信を広めること。このブラックボックスこそ、本作で描きたかったことです」と明かしている。

「私は確信する」は、2000年2月のフランス南西部トゥールーズで、38歳のスザンヌ・ヴィギエが3人の子供たちを残して忽然と姿を消した、実際に起こった「ヴィギエ事件」を映画化した作品。”ヒッチコック狂”の被害者の夫・ジャックによる“完全犯罪”と世間を騒がせた。実在の敏腕弁護士デュポン=モレッティ役に、ダルデンヌ兄弟の「息子のまなざし」などで知られるオリヴィエ・グルメ。容疑者の無実を確信するシングルマザーのノラは、フランスではコメディエンヌとしても人気が高いマリーナ・フォイスが演じている。

【アントワーヌ・ランボー監督インタビュー】

\---本作の製作のきっかけについて教えてください。

この奇妙な事件に興味を持ち、ジャック・ヴィギエの裁判を二度傍聴しました。そこで、すさまじい状況に陥れられてしまったジャックとスザンヌの子供たちと知り合いました。この裁判でフランスの司法の不合理さと、不確かな情報を元に告発されてしまった家族の苦難の両方が炙り出されるのを目撃しました。
現実を疑いながら、考えを述べていくのが自分にとっての映画の役割だと思っています。この映画では、裁判を唯一無二の事件として捉え、司法を間近で観察し、今日のフランス重罪院の複雑さを映し出しました。

\---映画製作するうえで工夫したところ、またテーマを教えてください。

法廷審問や電話記録にまで、細心の注意を払っています。事件については、一切後付けせずすべて真実です。司法の真実は、裏付けがない中、うわさや誹謗中傷によって形作られました。感情や幻想から罪人を作り上げるのは、なんと簡単なことなのか。なぜなら、人は何もないところに、何かを置きたがる生き物だからです。そうして、罪人が作り出される。私たちは内輪で確信を作り出すのです。論理的で合理的で、皆が喜び、決定的であるようにみせるのです。そして、誰かの疑いや、証拠の不在などは関係ないものとしてみなされるのです。一度、内輪での確信が生まれると、理性にすら勝ってしまうのです。きちんと道筋がある確信を広めること。このブラックボックスこそ、本作で描きたかったことです。
結論より、問題自体に強く興味を持ちました。ここで争点となっていることは、皆さんにもきっと深く考えていただけるでしょう。観客はノラの視点に寄り添いながら、彼女による裏付け調査とともに、起訴した側よりも証拠が揃っていないにも関わらず、ノラの確信に賛同するかもしれない。この映画の奥底では、真実への探求は気がおかしくなるほどの遠い道のりであるということが語られています。

\---キャスティングについてお話しをきかせてください。

まず最初にしたことは、主人公ノラの女優探しです。マリーナ・フォイスはすぐに脚本と配役について興味をもってくれました。彼女はこのような役を日頃から望んでいて、見事なほどに脚本に書いてない細やかなことまでも掴み取ってくれ、エネルギーや強さ、そして奥深さを持って、ノラのことを考えてくれました。マリーナがノラに共感してくれたので、一緒に映画作りをしたいと思いました。

\---デュポン=モレッティ弁護士を演じたオリヴィエ・グルメは、本当に弁護士をしていたかのような役の入り具合でした。

実在の弁護士であるデュポン=モレッティ弁護士とオリヴィエ・グルメは、実際にはそこまで似ていません。ただ、声や視線、そして人間性は通じるものがありました。オリヴィエにはデュポン=モレッティ弁護士がいる実際の裁判へ、傍聴に行ってもらいました。彼らはうまく打ち解けてくれたようです。裁判から帰ってくると、彼は生半可なコピーではなく、タバコの持ち方ひとつからして、デュポン=モレッティ弁護士の仕草を掴み取っていて、感銘を受けました。

\---他の役者は、どのようにキャスティングしたのですか?

念頭に置いていたのは、声の特徴です。例えば、ジャック・ヴィギエを演じたローラン・リュカは喉からしぼり出すように話します。沈黙が続く場面ではとても説得力が出ます。愛人デュランデ役のフィリップ・ウシャンの場合は、歌い上げるようなアクセントが特徴です。裁判の複雑性を映し出すには、予想がつかないような対立事項を作らねばなりません。つまり、コントラストですね。

\---映画の鍵となる最終弁論のシーンは、はっとさせるものがありますね。

オリヴィエ・グルメとはデュポン=モレッティ弁護士の最終弁論について含め、かなり話し合いました。一番難しかったのは、実際は1時間もある最終弁論を映画では10分以内に抑えないといけないということでした。細かなニュアンスまで含めて弁論の力強さをどのように表現するのか。数年かけてこのシーンの脚本を書きましたが、どうしても一部をカットすることができなかったので、オリヴィエにそれを見せながら、最終的に仕上げました。撮影では、オリヴィエの感情に合わせながら、バランスを見定めて撮りました。

私は確信する
2021年2月12日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
配給:セテラ・インターナショナル
©Delante Productions - Photo Séverine BRIGEOT

© 合同会社シングルライン