上場企業「雇用調整助成金」調査 1月までに648社が活用、12月から32社増加

 新型コロナ感染拡大に伴い雇用調整助成金の特例措置が2020年4月に開始され、2021年1月末で10カ月を経過した。この間に雇用調整助成金を計上、または申請が判明した上場企業は648社にのぼることがわかった。2020年12月末の616社から32社増え、全上場企業3833社のうち、16.9%が雇用調整助成金の特例措置を活用している。
 上場648社の雇用調整助成金の計上額は、合計2878億4610万円に達する。12月末の2469億8920万円から408億5690万円増加した。雇用調整助成金を活用する業種では労働集約型が目立ち、業績復調に時間を要する業種を中心に、引き続き活用が増えている。
 受給額の上位業種は、航空・鉄道などの交通インフラ関連を中心に、時短営業が長引く外食、小売、GoToトラベルの中止が直撃したレジャー・観光に集中している。業績の上方修正が相次ぐ製造や情報通信などの業績好調な業種と不振業種の“二極化”が進んでいる。

  • ※本調査は、雇用調整助成金の受給、または申請を情報開示した上場企業を対象に、2020年4月1日~2021年1月31日で金額、および

  活用や申請を開示資料に記載した企業を集計した。

厚生労働省によると、「大半の企業は雇調金の特例処置を活用しているが、すべてが活用しているかは判明しない」という。

【産業別】 小売、運送で高い利用率

 648社の産業別では、社数は製造業が254社(計上額608億2750万円)で最多だった。次いで、小売業127社(同568億1450万円)、サービス業123社(同518億2220万円)、運送業43社(同929億3690万円)と続く。
 産業別の利用率は、小売業が35.7%でトップ。次いで、運送業が34.6%、サービス業が23.6%と続き、社数が最多の製造業は17.0%だった。
 新型コロナが直撃したBtoCの業種で申請が目立ち、利用客が落ち込む航空・鉄道などは1社あたり計上額が大きいのが特徴。ワクチン接種が始まるが、コロナ収束までの道筋は不透明で、年度末の3月に向けて追加計上額が増えるとみられる。

東京五輪

【業種別】 小売、運送で高い利用率

 中止や無観客となった場合の経営への影響を聞いた。1万324社から回答を得た。
 最多は「影響はない」の71.1%(7,342社)で7割を超えた。一方、「悪い影響が多い」は26.6%(2,746社)、「良い影響が多い」は2.2%(236社)だった。

雇調金202102

【計上額別】 1億円未満の割合が減少、労働集約型を中心に追加の計上が相次ぐ

 計上額別で、最も多かったのは1億円未満で289社(構成比44.6%)だった。構成比は12月末(構成比45.2%)と比べ0.6ポイント低下した。次いで、1億円以上5億円未満188社(同29.0%)、5億円以上10億円未満55社(同8.5%)と続く。
  12月末と比べ、構成比が低下したのは記載なしを除いて、1億円未満(同45.2%→44.6%)だけだった。一方、5億円以上10億円未満(同7.9%→8.5%)、50億円以上100億円未満(同0.8%→1.1%)は上昇。運送、小売(外食含む)、サービスを中心に、追加計上が影響した。

  1月に11都府県で再発令された緊急事態宣言は、栃木県を除き3月まで再延長された。時短営業や外出自粛の長期化で、外食や小売、交通インフラ、観光関連を中心に、需要回復がさらに遠のいている。
 雇用調整助成金(雇調金)の特例措置は、緊急事態宣言の再発令に伴い、全国的に4月末(一部地域、業種により6月末)までの延長が決まった。さらに、緊急事態宣言の発令地域を対象に、飲食店や催事等に関連する大企業でも助成率が10割まで引き上げられ、対象業種ではこの間の雇用維持を下支えしている。しかし、三密回避・外出自粛の影響は、労働集約型産業を中心に、経営の重しになっている。雇調金の受給と並行し、上場企業では人員削減も進んでいる。
東京商工リサーチ調べで、2021年に早期・希望退職の募集実施が明らかになった上場企業は、2月12日までに34社判明。対象人数は8500人を超え、前年同期(2220人)を大きく上回っている。
 業種も2020年に18社と過去最多を記録したアパレル・繊維製品が6社、観光関連が3社で、新型コロナが直撃したBtoC関連企業で退職者の募集が相次いでいる。
 2020年度の雇用調整助成金の予算額は補正予算、予備費、雇用保険事業等からの充当額を含め3兆5882億円が計上された。2021年度予算では、雇調金6117億円と週に20時間未満で働くパートタイマーを対象にした緊急雇用安定助成金に124億円が計上されている。ただ、外出自粛の広がりで消費マインドは低迷し、コロナ前の業績回復が難しい企業は少なくない。
 2019年の深刻な人手不足を背景に、急な人員配置や経営計画の見直しが困難なBtoC業種、労働集約型の企業を中心に、今後も雇調金を活用する企業は増えるとみられる。

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