長崎の「桃太呂」本店 決意の移転 大水害乗り越えた「銅座市場」最後の店 名物これからも

銅座市場の建物で61年間営業した「長崎ぶたまん桃太呂」本店。右奥の新店舗に移る=長崎市銅座町

 長崎市の歓楽街・銅座で61年間営業してきた豚まんテークアウト専門店「長崎ぶたまん桃太呂」本店が4日、川と道路の整備のため立ち退く。長崎大水害も乗り越えた「銅座市場」の最後の店舗。新型コロナウイルスの流行で苦境にあるが、酔客らの願いに応じ、近くに移り営業を続ける。
 銅座市場は1951年、市が路面電車軌道上を占拠する闇市を撤去・収容するため銅座川を地下水路にして生まれた。その一角に60年、代表取締役の坂本隆司さん(59)の父精司さん=故人=が桃太呂を創業。当初は中華食堂だった。82年の大水害時には店舗1階が水没。坂本さんは泳いで逃げてきた酔客らを2階の窓から引き上げて救った。
 市は水を流す能力を上げるため地下水路を撤去し、周辺の木造老朽家屋の密集や慢性的な交通渋滞も解消しようと計画。2024年度に車道と散策路を組み合わせた「銅座川プロムナード」を整備する。市場はほぼ解体され、桃太呂の建物だけ残っていた。ただ市によると、整備エリア全体の地権者の4割以上と未契約。坂本さんは「多くの人がそれぞれ事情を抱えつつ移転に協力した。観光客が通りたくなる道になれば」と願う。
 新型コロナ禍で銅座のにぎわいは消え、本店の売り上げは前年比9割減に。県の休業・営業時間短縮の要請対象ではなかったが、期間中は自主的に本店を休み、支店を時短にした。今年はランタンフェスティバルが中止された打撃も大きい。「先が見えず、本店をそのまま閉めることも考えた」と坂本さん。だが多くの客から「飲み会帰りの手土産がなくなる」との声を聞き、移転継続を決意。数メートル離れた思案橋横丁に新店舗を建て、5日にオープンさせる。
 素材は全て国産で冷凍せず、ぶつ切りの県産豚肉の食感が程よい。インターネット販売もしているが、「一番おいしい出来たてを提供したい」。蒸し器から湯気と香りが立ち上る銅座の情景をこれからも守り続ける。

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