「梨泰院クラス」の女優が野球少女を熱演 モデルになった日本の女子投手は?

映画「野球少女」で主演を演じたイ・ジュヨン【画像:(c) 2019 KOREAN FILM COUNCIL. ALL RIGHTS RESERVED】

映画「野球少女」脚本・監督を務めたチェ・ユンテ氏インタビュー

日本でも大ヒットした韓流ドラマ「梨泰院(イテウォン)クラス」のイ・ジュヨンが、プロ野球界に挑む少女を演じたのが「野球少女」(3月5日公開)だ。脚本・監督を務めたチェ・ユンテ氏がオンライン・インタビューに応じ、撮影秘話を語った。高校の女性投手がプロ球界を目指す感動ストーリー。主人公は実在の韓国選手だけではなく、日本の“ナックル姫”吉田えり選手の活躍もヒントになっていたという。【平辻哲也】

映画の主人公はリトルリーグ出身で、最高球速134 kmを誇る高校野球部のピッチャーとして数々のメダルを獲得したチュ・スイン(イ・ジュヨン)。卒業を控え、プロ野球選手になる夢を叶えようとするが、女子という理由で入団テストさえ受けることができない。周囲からも「現実を見ろ」と忠告されるが、スインは諦めない。そんな姿に、かつてプロ野球選手になる夢に破れたコーチが心を動かされていく……。

チェ・ユンテ監督は「プロのバスケットボールもバレーボールも競技名の前に『男子』『女子』の性別がつくのに、プロ野球に性別がつかないのは、男女誰もができるからじゃないか」と考え、企画した。「NBAのドラフトを調べている時に思いついたんです。普段からNBAに関心を持っていたんですね。毎年、新しい選手が選抜されるんですけれども、今年はどんな選手がNBAに挑戦するんだろうかと思って。調べているうちに女性の野球選手がこんなふうにしてプロ野球に挑戦したら面白いんじゃないかと思って、シナリオを書き始めました」。

女性投手が球界に挑戦と聞けば、思い出すのは、アンダースローの左投手、水原勇気が活躍する漫画「野球狂の詩」(水島新司氏)だが、この存在は知らなかったという。モデルになったのは1997年に韓国で女性として初めて高校の野球部に所属し、KBO(韓国プロ野球)が主催する公式試合で先発登板したアン・ヒャンミ選手だ。

しかし、日本にも08年に関西独立リーグの合同トライアウトに合格し、ドラフト会議で神戸9クルーズから指名を受け、後に米独立リーグで活躍した“ナックル姫”吉田えり選手(現・エイジェック女子硬式野球部)がいる。

「はい、知っていました。ヒントになりましたね。吉田選手が活躍している姿が本当に印象的だったので、シナリオに取り入れていました。吉田選手は『姫』と言われているけど、スインは『自分には姫は合わない』っていうセリフもあったんです。撮影もしていたんですけど、編集の段階で入れられなくなってしまいました」。

日本の“ナックル姫”吉田えり選手の活躍もヒントに【画像:(c) 2019 KOREAN FILM COUNCIL. ALL RIGHTS RESERVED】

野球経験は一切なしも、40日間の猛特訓でスタントはなし

スポーツ映画はプレーシーンが命だ。野球経験は一切なかったイ・ジュヨンは、ドラフト候補の選手に見えるように40日間、猛特訓し、スタントなしで全てのシーンをこなした。その身体能力には驚かされる。「私たちも最初、スタントなしで撮るのはできないと思っていたんですね。ところが、トレーニングを受けて2週間後に見に行ったら、ものすごく上達していたんですよ。これだけできるなら、代役を使わずに1人でこなせるのではないかと思いました。思っていた以上に本当に頑張って演じてくれました。私よりも速い球を投げられましたね」。

「梨泰院クラス」ファンには、うれしいサプライズもある。主人公の宿敵、外食産業のトップ長家グループの会長チャン・デヒ役のユ・ジェミョンが後半、重要な役で出演するのだ。「『野球少女』の撮影が終わってから、イ・ジュヨンさんはユ・ジェミョンさんがいる事務所に移ったはずなんですよ。同じ事務所になったので、(その後に撮影された)『梨泰院クラス』でまた共演されたんじゃないかと思いますね。私たちが撮ったときには全く本当に偶然でした」。

さて、監督はプロスポーツをめぐる男女差はどのように考えているのか?

「身体的な差は確かにあると思います。でも、今は野球のように男女も一緒にやっているものはありますが、やはり女性が男性を相手に、競技をする時に大変さが伴うのは確かです。女性としての身体的な限界はあるかもしれないですが、いろんな方法を探せば、それは乗り越えられると思います。私自身は、スイン選手が今もどこかにいるような気がしています」。

将来、「野球少女」を見て、プロ野球を目指す女の子たちが増えるかもしれない。映画は、現実との折り合いもつけた着地点がお見事。韓流ドラマ好きだけではなく、野球好きも楽しめる。爽快、痛快、元気がもらえるエンタメになっている。

○チェ・ユンテ
2016年、韓国映画芸術アカデミー卒業。本作が長編映画デビュー作となる。短編映画監督作品に「Scooter」(07)、「Rough, Hard and Sad」(09)、「Test Flight」(12)、「Knocking on the Door of Your Heart 」(16)がある。

【写真集】40日間特訓したイ・ジュヨンのピッチングフォーム

【写真集】40日間特訓したイ・ジュヨンのピッチングフォーム【画像:(c) 2019 KOREAN FILM COUNCIL. ALL RIGHTS RESERVED】 signature

(平辻哲也 / Tetsuya Hiratsuji)

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