大手キャリアを手放し、5歳の息子とルワンダでタイ料理屋を開業した日本人シングルマザー『ルワンダでタイ料理屋をひらく』!

株式会社左右社では2021年3月22日、 唐渡千紗『ルワンダでタイ料理屋をひらく』を刊行いたします。 それにともない3月6日(土)~弊社オンラインショップ、 Amazonでの予約を開始。

人生このままでいいのか。 思い悩んだ著者は30歳の誕生日に突然「ルワンダでタイ料理屋をひらこう」と決意する。 5歳の息子とともに新天地へ渡り、 タイ料理屋「ASIAN KITCHEN」をオープンさせるも日本の常識が通用しない状況に日々困惑するばかり。 そんな不安な毎日を支えてくれたのは息子・ミナトと、 どんな過酷な状況もたくましく生きるルワンダの人々だった。 人生の岐路に立つすべての人を応援する傑作ノンフィクション。

はじめてのお客さんは泥棒!? (CHAPTER2「珍事は続くよ、 どこまでも『はじまりは珍客から』」より)

スタッフと仕込みをしていると、 キャッシュカウンターのあたりに誰かが来たことに気づいた。 お客様第一号ご来店! と一瞬沸き立ったのも束の間、 何だか様子がおかしい。 いらっしゃいませ、 と声をかけると、 ルワンダ人の若い男性二人組は、 店内をキョロキョロ見回しながら、 「ドリンクは何があるの?」と聞いてくる。 (中略)

エブリンが、 ルワンダ語で奥にいる男のシェフに声をかけつつ、 表の警備員を呼びに行く。 店側が警戒心を見せると、 男性二人組はそそくさと出て行った。

「泥棒だねぇ」

エブリンは、 またいつものように平然と言った。

「え? アー・ゼイ・シーブズ?」

「イエス、 ゼイ・アー。 ゼイ・アー・シーブズ」

中学生の英文法の練習問題のように、 数回繰り返してしまった

虐殺の過去を語るスタッフ、 イノセント (Chapter5「2020年、 春『イノセントのキセキ』より)

でもイノセントは話しながら何度も、 「アイ・アム・ラッキー。 イッツ・ミラクル」と挟んだ。

きっと彼は、 心底そう思っている。 身寄りがない自分に食料を分けてくれたり、 一つ屋根の下に寝かせてくれたりした人たちへの感謝の気持ちは、 五年しか彼のことを知らない私が言うのもおこがましいが、 彼の言動の端々からにじみ出ている。 確かに、 奇跡だ。 この状況で、 希望を捨てずに明日を信じて一日一日を生き抜いてきたイノセントの強さが、 奇跡だと思った。

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