続きが読みたい

 読み始めて数行のところに衝撃的な一文が待っていた。〈個性は大事、というようなことを人はよく言うが、学校以上に「個性を尊重すること、伸ばすこと」に向いていない場所は、たぶんない〉▲何が衝撃なの、私もそう思うけど…と首をかしげた皆さんに種明かしを。驚いたのは、この文章を見つけたのが今年の本県の公立高入試の国語の問題だったから▲出典は佐賀県出身の作家、寺地はるなさんの「水を縫う」で、冒頭に引いた部分は主人公の男子高校生・清澄がアタマの中で考えていること。彼の趣味は「刺繡(ししゅう)」で友人を作るのが苦手…と背景説明にある▲もちろん〈あなたたちが目指すのは窮屈な場所だ〉と県教委が入試の場で宣言したわけではなかろうし、逆に先生方の自戒や自責の念がにじみ出たわけでもあるまい。それは悪趣味な深読みというもの▲ただ、チクリと刺さる“学校批判”をふわりと受け入れ、入試の素材にした感覚は何だかしゃれている。そういえば少し前に〈県教委が校則の中身や運用の点検を求める通知を各学校長に出した〉と短い記事があった▲設問は、主人公が新たな決意を固め〈靴紐(ひも)を締め直して、歩く速度をはやめる〉ところで終わっている。うわ、続きが気になる-そんな受験者もいたかも、と妙な心配をしている。(智)

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