MotoGPカタール公式テスト5日目:強風とコース上の砂塵によりほとんどのライダーが走行キャンセル。ミラーが総合トップで終える

 3月12日、カタールのロサイル・インターナショナル・サーキットでMotoGP公式テスト5日目が実施された。しかしこの日は強風が吹き、それによりコース上が砂ぼこりにまみれた状況のために、多くのライダーが走行を見合わせ。最終日は天候により十分なテストのないまま終了となった。5日間のテスト総合トップタイムは、ジャック・ミラー(ドゥカティ・レノボ・チーム)が3日目に記録した1分53秒183。ミラーが開幕前公式テストを総合トップで終えた。
 
 セッション中に数名のライダーが走行したが、その状態はかなりひどいものだったらしい。コースインしたライダーの一人であるブラッド・ビンダー(レッドブル・KTM・ファクトリーレーシング)は「とても走るのは無理だ」と言っていたという。
 
 さて、実質4日間で終了したテストを、ライダーのコメントとともに振り返っていこう。2021年シーズンはこのロサイル・インターナショナル・サーキットでのみのテストであり、さらにエンジンのアップデートが行われない。通常とは違ったシーズン前のテストだった。
 
 総合トップだったミラー擁するドゥカティは、新しい空力デバイスを投入。ミラーはテスト3日目までトップ3以内につけたのち、4日目ではレースとほぼ同じ周回数を走るロングランを実施し、確実にテストを消化している。チームメイトのフランセスコ・バニャイアも総合5番手、さらにドゥカティ勢としては、ヨハン・ザルコ(プラマック・レーシング)が総合9番手に食い込んでいる。ドゥカティ勢全体としても、上々のタイム結果だと言えるだろう。
 
 4日目にトップ3を独占したヤマハ勢は、マーベリック・ビニャーレス(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)が総合2番手、ファビオ・クアルタラロ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)が総合3番手、フランコ・モルビデリ(ペトロナス・ヤマハSRT)が総合4番手と、総合順位では2番手から4番手を占めた。モルビデリは唯一Aスペックと呼ばれる最新マシンではないYZR-M1を駆るが、テストで安定した結果を出している。
 
 ビニャーレスはこのテストで、特にスタートの改善に取り組んできた。

2021年MotoGPカタール公式テスト マーベリック・ビニャーレス(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)

 
「僕たちは(テストライダーの)カル(・クラッチロー)と、たくさんのことをテストした。それは特別なものではないけれど、重要なものだ。最後には自分たちがどこにいるのかをよく理解していたし、どこに向かわないといけないのかわかっていた。つまり、スタートの改善だ。もちろん、バイクについても時間をかけた」

「トップスピードの改善が必要ではあるんだけど、今年は(エンジンのアップデートができないから)難しいからね。だから、完ぺきなスタートを切る必要があるわけだ。そして、コーナーでは早めに攻めないといけない」

「方向性としてもよかったと思っている。今季のバイクの動きは、ハンドリングがとてもいい。フルタンクで、というのが重要だ。僕たちのレベルはいい感じだと思うんだけどね」

 チームメイトのクアルタラロは、「100パーセント自信があるというわけじゃない」としながらも、昨年よりも苦戦したサーキットでうまくいくだろう、とテストを終えて考えている。2020年、ヤマハはアップダウンの激しいシーズンを送った。クアルタラロ自身もそうだ。9人のウイナーが誕生した群雄割拠のシーズンの中で最多の3勝を挙げながら、クアルタラロはランキング8位で終わっていた。うまくいかないところでも、一定ライン以上の結果が必要だった。

2021年MotoGPカタール公式テスト5日目 ファビオ・クアルタラロ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)

 
「とてもいい感じでテストを終えたと思う。うまく機能しなかったものをテストしたときでさえ、1分54秒後半のタイムだった。昨日は18周走ったタイヤで1分54秒4を出せたんだ。ペースにはとても満足しているよ」

「カタールGPのあとはポルティマオ(ポルトガルGP)。ポルティマオは僕たちがかなり苦戦したサーキットだった。きっとそこでもうまくいくと思うよ。もちろん、自信は100パーセントじゃない。でもヤマハと僕自身を信じている。厳しいときであっても、僕たちはマネジメントして、昨年よりもよくしようとするだろう。すべてのサーキットでバイクがよく走るかどうかは確信できないけれど、テストではすばらしい仕事をしたと感じているし、もし苦戦してもその準備はできていると感じるんだ」

■2022年に向けたエンジンのテストも行ったスズキ

 一方、スズキは5日目にシャシーをテストするつもりだったが、上述の状況によりそれができなかったということだ。このため、シャシーについてはまだ決定が下されていない状態だという。なお、スズキはこのカタール公式テストで、今季に向けたテストのみならず、2022年に向けたエンジンのテストを行った。
 
 総合8番手だったアレックス・リンスは「チャンピオンシップ、レースを戦う準備はできていると感じるよ。前にいられるよう100パーセントを尽くそう。いい結論とともにテストを終えたと思う。今日は残念だったけどね。2021年シャシーをもう一度テストするつもりだったんだけど。テストする時間が十分ではなかったから、それをレースで使うかどうかはわからない。でも、あとは問題ないよ」
 
 ディフェンディングチャンピオンのジョアン・ミルは総合7番手。リンスとは少しコメントが異なり、若干の懸念の色がコメントに混じっている。

2021年MotoGPカタール公式テスト ジョアン・ミル(チーム・スズキ・エクスター)

 
「70パーセント準備ができていると思う。レースウイークに向けたエレクトロニクスは作業をしたよ。1日じゃ足りないね。ドゥカティはとても速いし、ヤマハもうまくやっている。僕たちもそうだけど、たぶん彼らと、特にヤマハのライダーたちと同じくらい強くはない。僕たちは速いとは思うけど、最速じゃないんだ。だから、100パーセント満足はしていない。テストで一番強いライダーというわけじゃなかったからね」 
 
「昨年と同じシャシーでいくかもしれない。新しいシャシーのパフォーマンスはとてもいいのだけど、いいセットアップが必要で、今その時間はないから」
 
 総合10番手のポル・エスパルガロ(レプソル・ホンダ・チーム)が最上位のホンダ。テストライダーのステファン・ブラドルが3日目に転倒を喫して途中でテストを切り上げ、4日目にはアレックス・マルケス(LCRホンダ・カストロール)がクラッシュして、右足の第4中足骨の亀裂が確認された。ポル・エスパルガロはホンダに加入したばかり、中上貴晶(LCRホンダ・イデミツ)は今季から最新型マシンに乗り始める……、というなかなか厳しい状況に見える。

2021年MotoGPカタール公式テスト ポル・エスパルガロ(レプソル・ホンダ・チーム)

 
 ただ、ポル・エスパルガロは「5日目にテストできなかったからといって、あまり不満を感じてはいないよ。ここまでがよかったからね」と、おおむねテストに満足している様子だ。
 
「今日は新しいタイヤでレースディスタンスの周回数を走るロングランを予定していたんだ。それに、アタックも予定していた。ここまでよりもさらに速いタイムが出せると思っていたんだけど」

 しかし同時にKTMから乗り替えたホンダRC213Vの限界点を見つけるには「もう少し走行が必要だね」とも言う。
 
「限界について知っているかというと、時には『イエス』だし、時には『ノー』になる。タイヤにもよるね。僕はまだ、様々なコンパウンドを試す必要がある。それぞれのサーキットで、ミディアムタイヤやソフトタイヤがどう性能を発揮するのか知らないといけない。それに、どのコンパウンドが自分にとっていいのかも。ホンダだけじゃなく、すべてのMotoGPマシンのフロントタイヤの状況はすごく複雑なんだ。だから、時間と経験が必要だ。カタールでは、フロントをだいたいコントロールできていると思うんだけど」

 また、中上はこの日コースに出て、新しいホールショット・デバイスに慣れるためのスタート練習を実施した。テスト全体としては、まだまだ改善すべきところはある、と語る。
 
「もちろん満足はしていません。まだ競い合えるほどのペースでもバイクでもないんです。ペースには少し苦戦しているし、特に、新しいシャシーでバイクに本当にすごくいいと言えるフィードバックがないと思います。今日はレースで新しいシャシーか、以前のものを使うか、決めるつもりだったんです。でもテストができませんでした。スピード面ではポテンシャルがありバイクに自信をもてるので、新しいシャシーでいくとは思います。でもまだ改善の余地がたくさんありますね」

 ホンダは2020年、特に前半戦でミシュランがこのシーズンに投入した新しいリヤタイヤとの適合に苦しんだ。対してスズキやヤマハはこのタイヤに合ったマシンだったと言われている。2021年シーズンのホンダマシン、ミシュランタイヤとの相性を、中上はどう感じたのか。
 
「まだはっきりとは言えないですね。まだ十分なレベルにいるとは言えないし、僕自身も2021年バイクに適応しないといけないので。でも、昨年に比べて、タイヤは少しだけグリップが少なくなっていると感じます。タイヤアロケーションが少し変わって、昨年はもう一段、ソフトなタイヤでしたが今年はもう少し硬めになっています。でも、ジャックや多くのライダーのラップタイムは、すでに昨年よりも速いです。僕たちはまだジャックやファビオ、ビニャーレスのレベルには達していない状態です。ちょっと複雑なのですが、ラップタイムは速くてもロングランはまた違う話で、10周や15周するとタイムががくっと落ちます。このテスト結果だけでは理解が難しいですね」

■KTM勢は苦戦もオリベイラは前向き

 KTM勢はこのテストで苦戦しており、総合順位としてはミゲール・オリベイラ(レッドブル・KTM・ファクトリーレーシング)の16番手が最上位だった。ブラッド・ビンダー(レッドブル・KTM・ファクトリーレーシング)はこれまでに、フロントの負荷が少し大きいのではないか、と語っており、4日目にはフロントの空気圧を少し抜いて改善方向に向かったことを明かしていた。
 
 最終日を終えてオリベイラは、全体的にテストはよかった、と前向きなコメントを残している。

2021年MotoGPカタール公式テスト ミゲール・オリベイラ(レッドブルKTMファクトリー・レーシング)

 
「レースに向けた準備はできている。最後に細かいセットのテストができたらよかったんだけどね。それはレースウイークに向けて必要になるものだったから。とてもいいテストデーを過ごした。4日間、生産的なテストだったよ。パフォーマンスの面では作業する時間は十分ではなかったけれど、いいテストになったと思う」

 オリベイラはコンセッション(優遇措置)の適用を外れることについても、「心配はしていない」と言う。KTMは2020年でコンセッションの適用を外れたが、今季開幕までにエンジンのアップデートについては可能になっている。

「エンジンの面では、(基数が少なくなるので)きつくなるけれど、新しいエンジンスペックでは、そういう風に考えて開発されたから、長持ちするようにマテリアルを投入した。それに、ここまでエンジンの問題は出ていない。だから、まったく心配はしていないよ」

 なお、このテストにはダニ・ペドロサとともにテストライダーを務めるミカ・カリオは同行していなかった。ビンダーとオリベイラという若いファクトリーライダーふたりと、テック3・KTM・ファクトリーレーシングに新加入したペトルッチ、イケル・レクオーナ、それにペドロサによってテストが行われている。
 
 カリオは負傷が伝えられていたが同行しなかった理由はそれではなく、テストの準備で忙しかったので、元々カタール公式テストにカリオが参加する予定はなかった、ということだ。
 
 今季唯一コンセッションの適用を受けるアプリリアは、アレイシ・エスパルガロ(アプリリア・レーシング・チーム・グレシーニ)が総合6番手につけ、チームメイトのロレンツォ・サバドーリは総合26番手。エンジンのほか、フロント部分のエアダクト、ウイングレット、そしてフロントカウルの形状などがアップデートされたRS-GPをテストした。

2021年MotoGPカタール公式テスト アレイシ・エスパルガロ(アプリリア・レーシング・チーム・グレシーニ)

 
 アレイシ・エスパルガロは総合順位だけではなく、4日間を通じてコンスタントにトップ6以内につけている点も注目したいところ。今季はKTMを除き、4メーカーのエンジンのアップデートはない。アプリリアにとっては彼らとの差を縮めるチャンスのシーズンだろう。
 
 カタール公式テストは5日間の日程を終了し、いよいよ3月26日~28日、カタールGPでMotoGPの2021年シーズンが開幕する。

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