【高校野球】甲子園の熱気は「自分たちを変える」 戻ってきた球音…選手たちが感じた思い

第93回選抜高校野球が19日に開幕した

初戦から好ゲーム、神戸国際大付、仙台育英、健大高崎が勝利

第93回選抜高校野球が19日から甲子園球場で始まった。駅の改札を抜けると、選手の応援に来た保護者同士が再会を喜ぶ姿やチケットを握りしめるファンの姿もあった。球場に入ると大会歌の「今ありて」が鳴り響く。見上げると青空が広がっていた。甲子園が戻ってきた。【楢崎豊】

主催者の尽力で2年ぶりに迎えた春の甲子園。検温やアルコール消毒の機器も入退場口に多く用意されるなど、感染予防対策は徹底されていた。取材方式はすべてオンライン。来場者には大型ビジョンで入場チケットを14日間保管することをお願いするアナウンスが何度もされた。ビールなどのアルコール類も販売はされなかった。

アルプス席も人が戻った。学校関係者、保護者、部員たちはそれぞれ距離をとって応援し、吹奏楽部の応援は、CDに録音された音源を使用。チャンスや得点シーンでは、メガホンや手拍子でスタンドは沸いていた。

やっぱり、甲子園はいい――。球音が戻ってきた高校野球ファンから、そんな声も聞こえてきた。実際、プレーしていた監督、選手たちはどう感じていただろうか。

第1試合では神戸国際大付が、土壇場の9回裏に同点に追いつき、サヨナラ勝利を収めた。青木尚龍監督が「まさかこういう展開になるとは思っていなかったです。勝った瞬間、うれしかった」という劇的勝利。開幕カードから高校野球の醍醐味ともいえるシーソーゲーム。アルプス席と喜べた1勝は格別だった。

その9回裏の攻防。北海の左翼手・林大海の好返球で走者が本塁でアウトになったシーンがあった。人数が制限されているのにもかかわらず、そのノーバウンド送球に大きなどよめきが甲子園を襲った。敗戦投手となった北海のプロ注目・木村大成投手は「投げている時、スタンドの声は聞こえなかったですが、どよめきは感じていました。(有観客で)いつもの精神状態で投げることができませんでした」と悔しがった。これまで経験した無観客試合の公式戦は平常心で投げられたというが、選抜の舞台は苦しんだ。この経験を糧にして、また夏に帰ってくることを約束した。

好投の仙台育英・伊藤は1年夏に苦い記憶が…

第2試合では、強豪対決となったが仙台育英が2年生・古川翼投手、3年生・伊藤樹投手の好投手リレーで明徳義塾を1安打完封。勝利を収めた。

試合の主役だったのは4回途中から無安打無失点に封じた伊藤だった。1年夏に甲子園のマウンドに立ったが、奥川恭伸投手(現ヤクルト)のいた星稜に立ち向かった準々決勝で先発KO。苦い記憶があった。昨年夏は原則無観客(保護者ら一部は入場)だった交流試合でも甲子園の土を踏んだ。

「2年前の夏は、あれだけすごい数の観客、大きな歓声がありました。自分が小さい頃から見ていた甲子園。気持ちはすごい上がりました。でも昨年は保護者の方くらいしかいませんでした。試合で観客がいると感じることは、自分たちの心を変えるものだなと思いました」と、この試合は声援によって自分の力が発揮できたと振り返った。

関東王者の健大高崎(群馬)は投打が噛み合い、第3試合で下関国際(山口)に勝利。青柳博文監督は勝利の率直な感想を問われると、「昨年、先輩ができなかった試合を後輩たちがさせてもらい、勝利することできた。感謝と強い気持ちが選手から伝わってきました」と戻ってきた甲子園への思いを語った。

また、仙台育英に敗れた明徳義塾の名将・馬淵史郎監督は昨夏の交流試合では「やっぱり甲子園はいいですね」と“無観客”でも試合ができた甲子園について感慨深げに話していたが、この日はもう違った。勝負に徹し、敗れた悔しさが会見でこみあげていた。冷静に敗因を分析し、仙台育英の投手、走力を称え、夏への課題を明確にしていた。

甲子園は人々の思いが交錯する。夢でもあり、目標や大切なものが何かを再確認する場所でもある。仙台育英・島貫丞主将の選手宣誓の言葉には「希望。失った過去を未来に求めて希望を語り、実現する世の中に」という言葉があった。それぞれが感謝の思いを持ち、スタートラインに立った。戻ってきた球音が合図となり、新しい未来に向かって甲子園が動き出した。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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