早い老化、尽きぬ不安 「一緒の時間 大切に」ダウン症者の家族の思い重なる 3月21日 世界ダウン症の日

父親と一緒に歩くダウン症の男性(右)=県内

 「この子のために早く死ねない。その気力で生きてます」-。諫早市に住む77歳の母は言った。38歳の息子はダウン症だ。一般的にダウン症者の平均寿命は60歳前後ともいわれ、親たちがダウン症があるわが子の将来を不安視する状況は、今も昔もほとんど変わっていない。21日は「世界ダウン症の日」。

 同市堂崎町の井石昭子さん(77)の息子、純一郎さん(38)はダウン症。ここ1年で難聴や白内障の老化が始まり、通院時など昭子さんの介助がより欠かせない状況となった。「自分亡き後息子はどうなるのか」。不安は尽きない。
 純一郎さんが生まれた当時、ダウン症への社会の理解は今ほどなかった。「なぜ連れて来たのか」。親族が集まる席ですら、昭子さんは心無い言葉を浴びせられた。ダウン症の子の成長に良いと聞けば水泳や言葉の教室など何でもさせた。「少しでも健常者に近づけるように」。必死だった。
 純一郎さんは今、諫早市内のグループホームで暮らし、週末だけ自宅に戻る日々を送る。ただ、老化が急に進んだり、病に倒れたりしたとき、どんな施設でどんなケアを受けられるのか-母の悩みは深い。それでも「週末に帰ってくるのが楽しみ。あの子のおかげで元気にしてもらっている」。昭子さんは、不安を振り払うように笑った。
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 「みさかえの園総合発達医療福祉センターむつみの家」(同市小長井町)の診療部長、近藤達郎医師によると、県内のダウン症者は現在約800人。一般的に免疫力が弱く、さまざまな合併症も起こしやすい。老化も早く、平均寿命は60歳前後とされる。
 近藤医師もかねてダウン症者の「老後」について問題意識があり、2010年に県内外で実態を把握するためのアンケートを実施。その結果、30代半ばまでは自宅と施設で暮らす人の割合は半々だったが、50歳以上になると、自宅で生活する人はほとんどいないことなどが分かった。
 近藤医師は▽ダウン症者が成人後、小児科から各科への移行がうまくいっていない▽当事者のさまざまな症状を全体的に把握する担当医がいない場合が多い-など医療的なサポート不足を指摘。「多くの人が現状を知り、考える。優しい社会を共につくっていく意識が必要」と訴える。
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 諫早市西里町のパート、古川佳世子さん(53)は、ダウン症の姉内田祐子さん(58)を支える。祐子さんは7歳の頃から施設に入所。古川さんにとって姉は昔から「守らねばならない」存在だった。
 父親は15年に他界。母親(85)もここ数年は入退院を繰り返す。親が高齢になり、祐子さんのサポートが難しくなったため、約5年前に古川さんが姉の身元引受人になった。「施設にいる姉に寂しい思いをさせてきたのではないか」。そんな後ろめたさもあった。
 祐子さんは50代に入ってから排尿障害などの老化が始まり、今年1月に白内障の手術をした。今は新型コロナウイルス禍で数カ月に1回の面会しかできない状況が続く。「ダウン症者の平均寿命は60歳前後といわれる。一緒に過ごせる今のこの時間を大切にしたい」と古川さん。その言葉は、多くのダウン症者の家族の思いと重なる。


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