石木ダム建設巡る新たな論点 コロナ対策で必要性高まる?

感染症対策で石木ダムの必要性が高まるとする朝長市長の主張に反論するチラシを配る市民団体のメンバー(左から2番目)=佐世保市役所周辺

 長崎県と佐世保市が東彼川棚町に計画する石木ダム建設事業で、市は新型コロナウイルスなどの感染症対策を引き合いに「事業の必要性が高まる」との主張を強めている。一方、ダムに反対する市民団体「石木川まもり隊」は「コロナ禍による社会活動の停滞で水の使用量はむしろ減った」と反発。事業を巡る新たな論点となっている。

 昨年12月23日。市水道局庁舎の電光掲示板は、市内にある六つのダムの貯水率が75%を下回ったと知らせた。「怖い数字だ。渇水に備えて市民に節水を呼び掛けるべきではないか」。局内で警戒感が高まった。
 2018年8月には、貯水率が80%を割った段階で渇水対策本部を設置した。だが、今回は新型コロナの「第3波」の真っただ中。「うがいや手洗いなどの感染症対策の促進に逆行しないか」。こうした懸念や、6カ月以内にまとまった雨が降る予測があることから、節水の呼び掛けは見送った。現在、貯水率は80%台で推移している。
 朝長則男市長は2月、市議会本会議で新年度の施政方針を説明。石木ダムによる水源確保について、「昨今の感染症対策で求められる公衆衛生の役割」を強調した上で、「事業の必要性、緊急性はますます高まっている」と述べた。
 過去に公衆衛生を事業推進の理由に挙げる場面はあったが、初めて新型コロナを含む感染症対策に言及。新年度に国や県へ提出する施策要望書にも、こうした主張を盛り込む方向で調整している。
 市長の発言に市民団体は敏感に反応。「事実は逆」と問題視するチラシを3月8日朝、市役所周辺で急きょ配布した。団体は、うがいや手洗いなどの対策で「水使用量は一定増える」と認める。一方、感染予防の時短営業や休校などを考慮すると「全体的な水需要は伸びない」と指摘する。
 その根拠とするのが、コロナ禍前後の給水量の変化。感染が拡大した昨年4月から2月までの11カ月間で、佐世保地区の給水量(速報値)は計2206万969立方メートルで、前年同期と比べ1.7%減少。月別でも4~9月、2月は、前年同月より少なかった。
 市民団体の松本美智恵代表は「市長の主張は事実に基づかない思い込みで、石木ダムの必要性は低下している。コロナの不安を利用して事業を進めようとしている」とけん制。一方、市水道局は「渇水などの緊急事態への備えを考えると、佐世保市はもともと水源が不足している。水需要や給水量の増加に結び付ける意図はない」と反論する。
 新型コロナ対策で石木ダムの必要性は高まるのか-。両者の議論はかみ合わない。


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