【フィギュア】安藤美姫が分析!天才・羽生がハマった〝落とし穴〟

フリーでミスを連発し3位に転落した羽生(ロイター)

〝落とし穴〟はどこに――。フィギュアスケートの世界選手権(スウェーデン・ストックホルム)、男子フリーで五輪2連覇の羽生結弦(26=ANA)がまさかのミスを連発して3位に終わった。代わって初出場の新星・鍵山優真(17=星槎国際高横浜)が2位と大躍進し、波乱のうちに幕を閉じた。本紙は「昔から男子の試合を見るのが好きだった」という元世界女王の安藤美姫(33)を緊急取材。独自の眼力を持つ天才スケーターは〝王者の失敗〟をどう見たのか?

信じられない姿だった。ショートプログラム(SP)で首位発進した羽生はフリー冒頭の4回転ループで着氷時に体勢を崩し、4回転サルコー、トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)でもミスが出た。気迫のこもった演技を見せたライバルのネーサン・チェン(21=米国)に逆転で3連覇を許し、自身は3位に転落。試合後は「バランスがどんどん崩れていった」「最後まで軸をうまく取りきれなかった」と敗因を口にした。

フリーの映像を見た安藤は「いつものキレがなかったと思います」と最初の感想。そして王者の失敗をこう分析した。

「冒頭のループから明らかにスピード感がなく、そのため同じタイミングで跳んでも勢いがつかない。ジャンプに加わる力がないので、回転軸に伝わる速さも変化してしまいました。同じスケーターとして感じたのは、たとえ羽生選手であっても今季のように国際試合を経験せずに世界選手権に出ると、どこかで緊張する。それで体がこわばり、微妙な動きにつながったのだと思います」

現在、羽生は人類初のクワッドアクセル(4回転半ジャンプ)に挑戦中。それが他のジャンプに影響を与えたと指摘する専門家もいる。だが安藤は「確かにそういうこともありますが、羽生選手はそのレベルを超えています。SPであれだけ素晴らしい演技を見せたし、公式練習でもきれいなジャンプを跳んでいる。今回のミスは4回転半の挑戦とは関係ないと思います」と見解を語った。

今大会、羽生は開催地へ出発する3日前に4回転半の投入を断念。「もちろん優勝を狙っていたと思いますが、もしかするとその先を見据えていたのかもしれません」(安藤)。〝その先〟とは、来年の北京五輪だ。ここで人類初の大技を成功させる「夢」について、安藤は「五輪王者として常に誇りと向上心を持ち、高みを目指す姿勢は羽生選手らしいプロセス」と言いつつも「それよりも、ケガをせず大事な9か月を過ごしてほしい」とエールを送った。

一方、大躍進した鍵山については「ジュニア時代からジャンプやスピンをすごく高い質でやっていた。それに初めての舞台であれだけ堂々と演技し、肝が座っています。大事な場面で自分が持っている力を出せる選手だと思いますね」と大絶賛。さらに4位の宇野昌磨(23=トヨタ自動車)を含めた日本の男子勢の活躍に目を細めた。

「各国のレベルが上がっている中で、日本3選手がメダル争いしたことが本当にうれしい。私がジュニアのころは、男子はアジア人の表彰台が不可能とまで言われた時代。その中で本田(武史)選手が世界の舞台で奮闘し、高橋(大輔)選手が日本人の可能性を切り開いてきた。そんな背景を知っているので、本当に感慨深いですね」

今大会は上位2人の順位合計が「13」以内で五輪出場の最大3枠を獲得。元世界女王は「3人合わせても条件クリアですよ。これはホントにすごいこと!」と目を輝かせた。

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