復活

 辞めなくて良かったですね。復活の支えになったのは? どこが以前と変わりましたか? 「そうですね、よかったです」「皆さんの応援のおかげで戻ることができました」「そんなに変わっていないと思います」▲何とか感動的な一言を、涙を引き出そう、と試みるインタビュアーと淡々と言葉を重ねる関取の“攻防”を興味深く感じたのは、記者という当方の商売柄もあるだろうか。大相撲3月場所、12勝3敗で通算3度目の優勝を飾った関脇照ノ富士関▲千秋楽の一番は、星一つ差で追うライバルが相手。鋭い突進をガツンと受け止めるとすぐに逆襲に転じ、休まず前に出て一気に押し出した▲初土俵から25場所のスピード出世で大関昇進を果たしたのは2015年。ところが、自他ともに認める横綱候補をその先で待ち受けていたのは病や故障との闘いだった。満足に相撲が取れない時期が続き、2年前には番付が下から2番目の序二段まで下がった▲そこから再起の階段を一歩ずつ、しかし驚異的な速度で上がってきた。場所後には大関への再昇進が確実になった。「元の位置に戻ることができた」▲「結果が表れる日が来ると信じてやってきた」「土俵の上で一生懸命戦う姿を見せるのが恩返し」-飾らない言葉が力強く響くコロナ禍の土俵の復活劇だ。(智)

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