悩める新型BRZ「全然手応えがない」と井口卓人。GT500化する空力や“重さ”が影響か

「正直、ヤバいです。全然手応えがないんです」

 3月27日、スーパーGT富士公式テスト初日を終えたSUBARU BRZ R&D SPORT・井口卓人の表情は冴えなかった。

 井口によれば、今回の富士の初日は「どちらかというと、セットアップよりはタイヤテストをメインにやった」という。ベストタイムでは午前中のセッション1を16番手午後のセッション2は17番手で終えていた。

「(3月上旬の)岡山公式テストで走った感覚でいうと、『いいタイヤを見つけないと、ライバルに対して勝てないな』という感じだったので、最後まで足掻いていいものを見つけてやろうと何スペックかテストしたんですけど……なかなか難しいですね」

 岡山テストの時から、一発のタイムは良かったものの、ロングランでは一転タイムの落ちが顕著だったという。

「いろんな種類のタイヤを履いているんですが、あまりもたなかったり、かといって硬めのタイヤを履くともちはするんですがタイムは出ないといいう感じで、なかなかその間の“いいところ”がなくて。それをいま、セットアップを含めて探りながらやっている感じなんです」

 近年、躍進を遂げたダンロップタイヤが「去年、改善したかった部分についてトライしているというのもある」というが、タイヤ開発の方向性を大きく見誤ったということではないようだ。昨年“ベース”となったタイヤを履いても「なかなか去年の感覚が出てこない」と井口は困惑する。

「マシンのセットアップの方向性、たとえばバネレートはすごくフィーリングが良くなる『これだ!』というものがあったんですが、それが結構硬めの方向だったんです。去年は結構柔らかいバネで走っていた。そのあたりでタイヤに対しての攻撃性が少し上がってしまい、ワンランクくらい硬めのタイヤを履かないといけないのかな、というイメージになってきています」

“ワンランク硬めのタイヤ”。ここに、今季新たに導入される新型BRZにおける、合わせ込みの苦労が見え隠れする。

 今年、BRZは新型車両へと生まれ変わった。エンジンをはじめ基本コンポーネンツに変更はなく、陣営としても『正常進化』を謳っている

 ただし、空力面ではフロント、サイド、リヤともに見た目にも分かる変化がもたらされており、先代よりもダウンフォースを出す方向で進化している。

 これも影響してか、新型BRZは「極端に言えばGT500寄りのイメージで、なるべくクルマを動かさない方がラップタイムが上がる」(井口)マシンになっているという。そこで、硬めの足まわり、それを支える硬めのタイヤ……という方向性のセットアップが求められており、タイヤを含めた合わせ込みに苦労しているというのが、SUBARU BRZ R&D SPORTの置かれた現状のようだ。

 また、これら新型車両の性格に起因するものに加えてもうひとつ、セットアップやタイヤ開発の方向性に大きく影響しているものが考えられる。規則による車両重量の増加だ。

■「鈴鹿・オートポリス・SUGOにワクワク感はある」と井口

 井口はBoP(性能調整)についてのエクスキューズを語らなかったが、富士公式テスト後の3月30日に発表された第1戦岡山向けの参加条件では、昨年最終戦時は最低車重の1150kgをベースに『+15kg』だったBRZのBoP重量が、『+50kg』へと35kg増加。さらに、今年の開幕戦岡山では速度抑制措置の『特別BoP』35kgを背負うことになる。3月上旬の岡山公式テストではこれを睨み、昨年最終戦比で70kg重い状態で走行していたはずだ。

 新型マシン導入によるダウンフォース量の増大に加え、これら重量の変化も現状のBRZの開発に大きな影響を与えていることだろう。

 さらにこれらの規定による重量増に加えもうひとつ、今季より『GT300』規定(2020年までの『JAF-GT300』規定)車両の燃料タンク容量が120リッターへと拡大されたことも、マシンの挙動に影響を与える可能性があるようだ(※GTAによる事前予告を伴い容量が減じられる可能性あり)。

「120積んだときに、結構バランスが変わるんです」と井口。

「その状態で、去年までのように山ちゃん(山内英輝)がスタートダッシュで飛ばして……というのも(タイヤに対して)どうなのかな、とも思いますし。その辺も、今年はシビアにやっていかなきゃいけないのかなという気がしています」

 もちろん、この燃料タンク容量拡大は昨年の第6戦鈴鹿や第7戦もてぎなどで見られた、『ドライバー・ミニマムを過ぎているが、満タンにしてもゴールまで走り切れないため(SCが導入されそうな状況にもかかわらず)ピットインできない』という戦略面での不公平感を解消することを目指した措置であると理解できるが、同時に“物理の法則”がマシンパフォーマンスに影響するのは当然の帰結と言える。

 オフの最後のテストが終わり、開幕戦に持ち込むタイヤも決定された以上、あとはセットアップで最適解を見つけてシーズンをスタートするしかない。

 新型車両で挑む2021年について井口は、ダウンフォースの増大などにより「高速域のパフォーマンスは上がっている感じがあり、エアロをうまく使うことができれば、鈴鹿・オートポリス・SUGOあたりは性能的にイケる感覚はあるので、そこに向けたワクワク感はある」と、昨年開催がなかったサーキットでの戦いも視野に入れた期待感を示す。

 だが、開幕戦を目の前にした現在は、不安の方が大きいようだ。

「なにしろこの岡山、富士のテストで思うようなロングランができていない。とくにBS(ブリヂストン)勢は安定して速いタイムでロングしてるので、そこと比較してしまうとまだ足りていないと思います」

 富士テスト初日終了時点で井口は、開幕戦に向けた現状の仕上がりを「30点くらいですかねぇ」と語った。昨年の活躍ぶりからすればかなり低い数字にも思えるが、果たして岡山ではどのようなパフォーマンスを見せてくれるのか。一発だけでなく、ロングランのタイムにも注目していきたい。

2021スーパーGT富士公式テスト SUBARU BRZ R&D SPORT(井口卓人/山内英輝)

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