今年1月に刊行した小説『母影』で、 第164回芥川賞の候補作となった尾崎世界観が、 芥川賞作家の柳美里に会うために、 福島県南相馬市で柳が運営する書店「フルハウス」を訪れた。 2020年に『JR上野駅公園口』が全米図書賞（翻訳部門）を受賞し、 いま大いに注目を集めている柳だが、 尾崎が柳美里の作品に出会ったのは10代の終わり頃。 バンドも仕事もうまくいかずに苦しんでいた時期に、 柳美里の『ゴールドラッシュ』（新潮文庫）を読んで救われたという。 演劇と小説の両輪で活動をつづけてきた作家に、 創作について、 言葉について、 人生について、 尾崎がじっくりと話を聞いた。
対談の内容
・人が目に留まらない世界を書けることが小説家の才能だと思う
・私もたいがいケチをつけられてきましたよ
・誰も歌わないようなことを歌ってきました
・あの母子は心中するのでは、 と思って読んでいました
・誰もが「正しさ」を主張することの窮屈さ
・「幸せになった」と言われるのに心当たりはありますか？
・言葉になる前のなにかを書くという感覚
・言葉が速くて羨ましいです
・死をイメージすることはありますか
・「クソが」って、 私もついつい言っちゃうんですよ
・つま先立ちで歌うのはどうしてなの
対談後は柳の書店「フルハウス」の店内をくまなく巡って、 気になった本を10冊近く購入した尾崎。 小さな書店、 とりわけ個人経営で独自の品揃えをしている書店に強い関心をもっており、 『母影』のサイン本作成にも全面的に協力していた。
その後、 柳の案内で福島第一原発にほど近い双葉町を訪れた尾崎。 帰宅困難区域から解除されたものの、 人影もまばらな町を歩きながら、 柳が語る「震災10年後」の現状に耳を傾けていた。
(C)新潮社
