今日も元気だ、小便小僧!

毎月小便小僧の衣装替えをボランティアで手掛けている「あじさい」のメンバー

 【汐留鉄道倶楽部】羽田空港に向かう東京モノレールとの乗換駅であるJR浜松町駅。2面あるホームのうちの海側、山手線外回り(3番線)と京浜東北線南行(4番線)が発着するそのホームの南端(田町寄り)に、かわいらしい「小便小僧」が立つ。ほとばしる水流は、一日中気持ちよい放物線を描いている。

 まだモノレールはなく小さな駅だった時代の1952年10月14日、日本の鉄道開通80周年の記念として、当時の国鉄の嘱託歯科医だった小林光さんが陶器製の像を寄贈したのが始まりで、1955年にブロンズ像に交代、その後ホームの改築でわずかに場所は移動したものの、立ち続けて来年で70年を迎える。

 小便小僧の元祖は17世紀初め、ベルギーのブリュッセルにお目見えした噴水像だ。由来は諸説あるが、一説に「爆弾の導火線に小便をかけて消し街を救った少年がいた」というものがある。そんないわれもあって、1986年に近くの東京消防庁芝消防署が地元の手芸グループ「あじさい」に依頼、火災予防のPRとして消防服を着せたのがきっかけで、その後も春秋の火災予防運動がある月は消防服を着せるのが慣例となっている。

 「毎月26日に衣装が替わる」と聞いて、3月のその日、ホームを訪ねてみた。13時ごろ、あじさいのメンバーが集まり始め、この日は5人。警備のガードマンも立ち会って、まずは着ていた服を脱がせる作業から始まった。ホームの端は結構幅が狭く、山手線側はホームドアがあるが京浜東北線側は手すり柵があるだけなので、走りだす列車には十分注意しなければならない。

 この日の新しい衣装は、新年度が始まるのに合わせ、ランドセルを背負って黄色い帽子をかぶったぴかぴかの1年生という趣向だ。シャツを着せ、靴を履かせ、ズボンをはかせる。きちんと水が飛ぶよう肝心の隙間も空けながら、1カ月間風雨で服が飛んだりちぎれたりしないよう細かいところまで丁寧に縫い付ける。像の高さは43センチとそう大きくないし、石台の上から動かせないので、手仕事は結構大変だ。最後に桜の花を飾り1時間以上かけて着替えは終わった。この間、山手、京浜東北だけでなく隣接の線路を東海道新幹線、東海道本線、頭上はモノレールが何度も行き交った。

「新入生」に着替えが完了した姿(左)と着替える前の「火消し」の姿(右)

 コロナ禍になってから小便小僧もマスクをしている。あじさい代表の後藤和子さんは「その季節、その時期にふさわしい格好をすることで、社会に役立つメッセージの発信もできるのでやりがいがある」という。

 11両編成の山手線なら先頭がちょうど小便小僧の位置で止まるが、1両少ない京浜東北だと先頭が届かず、毎日利用する乗降客でも見過ごしてしまっているかもしれない。浜松町駅をせっかく利用するなら、この心のこもった小さな像にも気にとめてほしいと思う。

☆共同通信・篠原啓一

 ※汐留鉄道倶楽部は、鉄道好きの共同通信社の記者、カメラマンが書いたコラム、エッセーです。

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