楽天・茂木&辰己“覚醒”の影に「脇役コーチ」あり? 専門家が着目する2人の存在

楽天の茂木栄五郎(左)と辰己涼介【写真:荒川祐史】

GG賞7度、燕&楽天で活躍した飯田哲也氏が好調な2人を分析

ペナントレースの10分の1余りを消化し、好調な戦いぶりを見せている楽天。古巣に復帰した田中将大はまだ登板はないものの、涌井秀章や岸孝之、則本昂大と強力先発陣は開幕から前評判通りの力を発揮している。一方、打線でも2人の選手が覚醒の気配を見せている。現在打率トップで、本塁打、打点でもリーグ上位につけている茂木栄五郎内野手と、ここまで打率3割をキープし、リーグ2位の5本塁打をマークしている辰己涼介外野手だ。

ともに大卒野手として、チームの主軸として期待されている2人の飛躍の要因は何か。現役時代にヤクルト、楽天で外野手として7度のゴールデングラブ賞を受賞し、ヤクルトとソフトバンクではコーチを務めた野球評論家の飯田哲也氏は、2人の打撃コーチの存在に着目する。

飯田氏からまず名前が挙がったのが、ドラフト1位入団でプロ3年目を迎えた辰己だ。今季は開幕から1番に定着。各球団との対戦が一回りした11日時点(以後全て同じ)で、リーグ最多の19安打を放ち、打率.306、5本塁打とリードオフマンとして活躍している。

「オープン戦が良かったので、シーズンに入ってどうかと思ったが、長打の打てる1番打者としていい活躍をしています」と飯田氏は評価。「昨年までは振りがちょっと大きいと思ったが、今年はボール球を見極められるようになって三振が減ったし、確率も上がった」と成長を感じている。

さらに「追い込まれるまでは、ファーストストライクから強振してくる。あれだけ振られると、相手チームにとっては厄介な存在でしょう。さらに追い込まれたらファールで逃げたり、コンパクトなスイングで逆方向にヒットを打つことができる。本当にいいバッターになったと思います」と感心する。

一方、昨季からキャプテンを務める茂木は、昨季の本塁打王・浅村栄斗の後を打つ5番として、打率.375、4本塁打、13打点とポイントゲッターとしての役割を果たしている。

渡辺直人、鉄平両打撃コーチの存在を強調「ホームランバッターでもなかった」

「茂木も辰己と同じタイプで、長打も打てる選手。昨年もシーズン途中までは高い数字を残していたが、故障で1年間、戦うことができなかった。今季はソフトバンク戦でも2試合欠場していたように、石井監督もうまく休ませながら、シーズンを通して使いたいのだろうと感じました」

2人の躍進について、飯田氏は渡辺直人、鉄平両打撃コーチの存在が大きいのではないかと言う。今季の楽天は金森栄治打撃コーチも含めて、1軍の打撃部門は3人体制を敷いている。

「茂木も辰己も、昨年1年間やって自分の強みと弱みを分かった上で、反省も踏まえてキャンプから2人のコーチと一生懸命練習に取り組んでいたので、それがうまくいったのだと思います。基本的には金森さんが全体を見ているのだと思いますが、渡辺、鉄平の2人は選手と年齢も近い。そういった意味でも、兄貴分のような存在で、ざっくばらんにやれているのではないでしょうか」

さらに両コーチの現役時代のスタイルも関係があるのではないか、と飯田氏は語る。

「茂木、辰己の2人とも、強くバットを振るタイプですが、振り回しても当たらなければ意味がない。そこを渡辺、鉄平両コーチが『振っているだけではダメだ』『簡単にアウトになるな』という指導をしているのではないかと思います。2人とも現役時代は振り回すタイプではなく、ホームランバッターでもなかったので、そういう打撃理論を教わって、茂木も辰己も気づいたことがあったのではないでしょうか」

選手には様々なタイプがある。指導するコーチも、多様なタイプが必要なはず。「バッティングコーチは、一般的には長打が打てるような選手だった人が多い中、脇役的なコーチがその要素を入れることによって、率も上がるはずだし、フォアボールの取り方もわかるようになる。脇役としての気持ちがわかることも大きい。今の楽天は、それがうまく機能しているのではないでしょうか」とも。選手の成長の影に、様々なタイプのコーチの存在あり。茂木と辰己の2人だけでなく、今年の楽天打線は期待できそうだ。(大久保泰伸 / Yasunobu Okubo)

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