第七十二回「フランク・ザッパとは、なかなか解読できない経典みたいなものかもしれない」

春になると、フランク・ザッパを聴きたくなるのはどういうことなのでしょう? 頭や気持ちが、どうにも落ち着かず、変な気分になってくるから、ヘンテコなのものを求めているのかもしれません。

などとわたしは、フランク・ザッパのことをよくわかっているように、ザッパ通みたいな感じで語っていますが、実は、フランク・ザッパのことは、よくわかっていません。このように、いまもってフランク・ザッパをよくわかっていないながら、わかろうとした時期も、もちろんありました。

現在のようにストリーミングサービスもなかったころは、レコードやCDを買い集めなくてはならなかった。けれども、フランク・ザッパの作品は大量だったので、すべて購入すれば破産してしまう。そこでわたしは、お茶の水にあった、レンタルCD屋の、ジャニスに通い、とにかくフランク・ザッパを借りまくりました。さらにライナノーツをコピーして、ファイルに保存して、どうにかして、フランク・ザッパをよくわかっている人間になろうと試みたのです。

しかし、結局わかったことは、この人は手に負えないということでした。ザッパの自伝とか、特集した雑誌を読んでみたりもしましたが、やはり、なんにもわからなかった。いまとなっては内容もよく覚えていません。このようにしてザッパの音楽を知るため、ザッパという人間を理解しようと掘り下げてみたのですが、それ以上に、音楽のほうも、聴くほどに、なんだかよくわからなくなってきてしまったのです。

このようにわからなくなってしまった状態ながらも、フランク・ザッパの関係する音楽で、一番好きなアルバムはなにかと考えてみたら、『Hot Rats』なのですが、理由は、「普通に聴きやすく格好いいアルバム」などと、間抜けな感想しか言えません。でもって、またまたやってきた今年の春、やはり、わからないフランク・ザッパを聴きたくなって、いろいろ漁っていると、『THE HOT RATS SESSIONS』(2019年発売かな?)というアルバムを見つけました。

このアルバム、実は、以前から存在を知っていたのだけれど、聴いてしまうと、ドツボにハマりそうなので聴くのをやめていたのです。しかし今回、ようやく聴いてみました。入っている曲は、アルバムの名前通り、『Hot Rats』を作るまでのセッションばかりで、6枚組で、70曲くらいあります。『Hot Rats』の原曲を思い返しながら聴くと大変楽しいのですが、正直、途中で飽きる。全部、通して聴くのは修行のようです。だが、一気に聴けば、なにか悟りのようなものが開けるような気がしてきました。フランク・ザッパとは、なかなか解読できない経典みたいなものなのかもしれません。道のりは長そうです。

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