春愁が覆う

 日差しは強くなり、吹く風もまばゆく感じられる。そんなさまを表す「風光る」という春の季語がある。心弾むような言葉が合う季節だが、春ゆえの気だるさ、わびしさ、物悲しさもあり、これを「春愁(しゅんしゅう)」と言うらしい▲この欄で先日、観光や旅行業界に願わくば「春風を」と書いた。県内旅行の割引キャンペーンの第2弾が15日に始まり、苦境にあえぐ業界に吹く清新な風になればいい、と▲新型コロナが県内でも急拡大する中でキャンペーンは始まったが、感染はここ数日でさらに広がり、23日の宿泊分からいったん停止することになった。県内を春愁が覆う▲「Go To トラベル」事業の代わりとなるのが割引キャンペーンで、感染が落ち着いている地域を対象にして、国から自治体に補助金が出る。落ち着いたから始まったのに、数日で急ブレーキを踏む事態になった。この感染力とスピードは想定外というほかない▲大型連休の予定が消えて肩を落とす人も多いだろう。業界は期待の山が高かったぶん、がっかりの谷は余計に深い。「やむを得ない」の一語ではとても言い尽くせまい▲〈春愁の笑みをつくりし鏡かな〉吉田すばる。無理に笑みを浮かべるのも難しい春の愁いだが、今はとにかく「波」を超えることに集中すべき時だろう。風の吹く日を待ちながら。(徹)


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