人ごとだと思っていませんか?若年性認知症

認知症は高齢者だけが罹る病気?

若年性認知症とは

ほんの十数年前までは、「痴呆」という言葉で表されていた認知症。
さて、認知症は高齢の方だけが注意すべきものだと考えていませんか?
実は、若い方にも起こりうる病気なのです。
「若年性認知症」と呼ばれており、64歳以下の方が罹患する認知症のことです。
平均発症年齢は、働き盛りの50代といわれています。

認知症の症状とは

記憶力や判断力の低下による認知障害が起こります。

「昨日の夜、何食べたっけ?」
「最近、人の名前が出てこなくって」

これらのような物忘れは、加齢による”ただの物忘れ”です。
認知症による物忘れは、以下のような特徴があります。

・ 出来事自体を忘れてしまう
・ 新しいことから忘れていく

具体的には以下の様子です。

・ 夕食を食べたことそのものを覚えていない
・ 古い知人は認知しているが、最近知り合った人のことは記憶に留められない

たとえば、症状の進行した方が周囲の方を「お父さん、お母さん」と呼んだりすることがありますが、これは現在から少年少女の頃までの記憶が失われたことによるものだと思います。
認知症は、記憶のタイムスリップが起こります。

若年性認知症の患者が抱えやすい問題

若年性認知症は、働き盛りの若い方が発症する病気です。
つまり、次のような問題が現れることが多いのです。

① 経済的な問題

若年性認知症の症状が進むと、仕事に支障を来すようになります。
やむを得ず、退職することもあるでしょう。
それにより無収入となり、経済困窮に陥ってしまいます。

② 両親や配偶者が介護を担う

この世代は両親が心身共に健康であったり、たとえ子どもがいたとしても未成年であったりすることが珍しくありません。
そのため、患者の介護は後期高齢者の両親や、配偶者がかかりきりになる傾向にあります。

③ 病気の発見が遅れやすい

認知症の発症は抑うつ症状や各種の体調不良に始まることも多く、それがきっかけで医療機関を受診する方もいらっしゃいます。
その際、若いためにうつ病や更年期障害などと間違われることがあり、認知症であったことに気付かず経過してしまうのです。

④ 体は元気。

年齢的に、身体は健康な方が多いです。

徘徊するにしても高齢者と比べると遠出ができ、体力もあるため抵抗力も強いということです。
行動に抑制が効きにくいことで介護者の負担も強まります。

⑤ 同じ疾患の者同士で馴染めない

治療や介護サービスを開始できても、同じ疾患を持つ人同士で輪を作れないことが多いです。
なぜなら、その人たちと自分は親ほども年齢が異なる人たちだからです。
50歳の体力ある方が、90歳の方と一緒に折り紙に熱中できるでしょうか。
環境づくりに工夫が必要なのも、この疾患の特徴です。

⑥ 支援の導入が遅れやすい

平均的にこの世代は社会保障の恩恵を受ける機会が少なく、知識にも乏しいのではないでしょうか。
日本の制度は基本的に「申請制」であるため、利用者側に行動が求められます。

認知症を未然に防ぐ

普段の様子から変化を読み取る

若年性認知症も他の病気と同様に早期発見早期治療で進行を遅らせることが可能です。
認知症の変化として次のような例があります。

・ 約束したことを忘れる
・ 料理の味付けが変わる
・ 道を間違える、覚えられない
・ 話をつくろう様子がある
・ 性格が変わった

親しい友人や家族が変化に気付くことで、治療につながることも珍しくありません。
日ごろからの人との関わりが大切ですね。

認知症を未然に防ぐ

軽度認知障害(MCI)をご存知ですか?
これは、健康な状態と認知症の状態との間の段階であると考えられており、いわゆる「認知症の一歩手前」です。
年齢の平均より記憶力が低下しているものの、日常動作に支障はないといった特徴を持ちます。
この段階で医療機関に関わることができた方は、早期の予防に取り組み認知症に移行するタイミングを遅らせることができます。
何らかの変化が見られた際は、早めの対応が功を奏します。

若年性認知症が相談できる窓口、使える制度

若年性認知症の相談先

本人や家族の負担が大きいのが若年性認知症の特徴ですので、お困りの際は迷うことなく公的な相談機関をご利用ください。

① 病院のソーシャルワーカー

病院のソーシャルワーカーは、「患者相談窓口」や「医療福祉相談室」に常駐しています。
患者のみならず、家族や地域の人々などを巻き込みながら解決を図る専門職です。
医療の知識をはじめ社会保障制度や法律なども熟知しており、広い視野で支援を考えるきっかけとなると思います。

② 地域包括支援センター

地域包括支援センターは、介護に関わる代表的な窓口です。
介護保険の申請や介護サービスなど、各種相談に対応してもらうことができます。
最寄りのセンターはインターネットや役所で調べることができます。

③ 就労先の産業医

産業医は、就労している方の身近なお医者さんです。
心身に渡る不調について、医学的見地から相談に乗ってもらうことができます。従業員50人以上の企業には必ずいらっしゃいます。

④ 認知症疾患医療センター

認知症疾患医療センターは、地域ごとに必ず設けられています。
役所やインターネットで最寄りのセンターを検索いただけます。
その名の通り、認知症に関わる各種の相談に対応します。

なお、医療機関を受診する際は、本人の様子を心得ている方の同行をお勧めします。
本人では説明しきれないことを同行者が代弁することで、医師へ正確に様子を伝えることができます。
さらに、メモを用意することも効果的です。
事前に患者の情報を整理することができ、医療機関と良好なコミュニケーションを取ることに役立てることができます。

介護保険は、65歳未満でも使える

介護保険は65歳を待たずに利用ができることをご存知ですか?
条件を満たせば、40歳から64歳の方でも利用することが可能です。
介護保険を利用すると、ヘルパーやデイサービス、ショートステイなどを適宜利用することができ、家族が担う介護負担の軽減が期待できます。
一方、39歳以下の方は条件を満たしても介護保険は利用できません。
そのような場合は利用できるサービスに限りがあるのですが、個人で抱え込まず、まずは相談窓口にお問い合わせください。
認知症は、検査や脳画像だけで病態が明らかになるものではありません。
検査を検討材料とした上で、本人や周囲の方の証言を大いに活かして治療を進めます。
糖尿病や高血圧のように数値でわかる病気ではありませんので、周囲の方の観察力や、医療機関や支援者との誤解の少ない情報交換が病状安定の鍵となります。
日ごとに記憶が消えていくという体験は、自身の思い出が失われていくということですので想像するだけで恐怖を感じますね。
そのような恐怖を抱いている本人の不安とも向き合い、あたたかい関わりをしたいですね。
病気になったときの備えは大切です。
わたしたちも日ごろから「人と交流する」、「軽運動を継続する」といった心がけを胸に、脳の健康を維持していきましょう。

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