「泣きそうでした」不振の立大・山田健太が復活弾 仲間と乗り越えた復調までの1週間

24日の早大戦で本塁打を放った立大・山田健太【写真:小林靖】

4番・山田健太が復調、立大は2017年春以来の優勝に向けて好スタート

ガッツポーズがその1本の重要性を示していた。立大の山田健太(3年)は東京六大学野球・早大戦(24日)の第1打席で適時打を放つと、塁上で何度も両手を突き上げた。前週の法大戦で2試合、8打席で無安打。「チームの勝利に貢献できなかった」とチームの4番として不甲斐ない結果に終わっていたが、第3打席では本塁打までマーク。1週間の苦悩と光に迫った。【市川いずみ】

第1打席で放った安打は仲間が打たせてくれた。爽やかな表情がトレードマークである山田の顔は、どこか暗いように見えたが、早大戦では別人のようにハツラツとプレーしていた。第3週を終え、ここまで3勝1分けの立大が首位に立っている。4番の存在は、その原動力となっている。

1年春から立大の4番に座り、これまでに5本塁打、19年秋・20年秋はベストナインにも選ばれた。「ドラフト1位でプロに行く」ためには大事な1年。春季リーグ開幕前のオープン戦では、このオフに取り組んだ逆方向への本塁打を放つなど「いい感じ」に仕上がっていた“はず”だった。

しかし、開幕してみると17日の法大戦で3打数2三振、翌日の試合も3打数無安打。明らかなボール球にもバットが出るなど、本人の言葉を借りれば「ノー感じ」。5番・東怜央の活躍などでチームが勝利したことが救いだったが、残り8試合を戦う上で4番の不振を解決することは急務だった。

法大戦が終わるとチームメートが声をかけてくれた。その中で特に山田に寄り添ってくれたのが同じ3年生の稲葉悠、安藤颯人、学生コーチの伊東良起だった。

「1年生の時からいつも自主練に付き合ってくれて、1番自分のバッティングフォームを見てきてくれました。『いいときはもっとこうなってるよ』とアドバイスしてくれて、フォームを修正しました」

笑顔でホームインする立大・山田健太【写真:小林靖】

チーム内の“ライバル”が山田の復調を支える、ともにした時間が実る

ボールを投げる係、動画を撮影する係……帰寮してから約2時間、稲葉、安藤、伊東が山田の為に時間を費やしてくれた。稲葉や安藤も同じ内野手。山田は立派なライバルで、本来なら自分たちもメンバーに入るための練習をしたいはずだ。それにも関わらず自分のためにバッティング練習に付き合ってくれたことに「泣きそうになりました」。伊東は翌日以降も早大戦を迎えるまで毎日欠かさず自主練習の打撃投手を買って出てくれた。「自分の為にこんなにみんなが動いてくれて、絶対結果を出さないといけないと思いました」

迎えた早大戦。初回にさっそく一、三塁の先制のチャンスで打席が回ってきた。初球のストレートを振りぬくと打球は三遊間を抜けていった。この春、9打席目での初ヒット。「1本出て楽になりました」。溢れんばかりの笑顔で仲間へ向けてガッツポーズをした。3打席目にはレフト中段への本塁打。1週間仲間と取り組んできた「自分のスイング」を体現できた打席となった。

「みんなに助けてもらって本当に嬉しかったんです。その恩返しはチームの勝利だと思うので、打ってチームの勝利に貢献したいです」。現在、立大は負けなしのリーグトップ。「優勝を狙える位置なのでしっかり戦いたい」1打席が自分だけのものじゃないことを改めて感じた六大学屈指のスラッガーは、最高の形でのチームメイトへの恩返しを誓った。(市川いずみ / Izumi Ichikawa)

市川いずみ(いちかわ・いずみ) 京都府出身のフリーアナウンサー、関西大学卒。元山口朝日放送アナウンサー時代には高校野球の実況も担当し、最優秀新人賞を受賞。NHKワースポ×MLBの土日キャスター。学生時代はソフトボールで全国大会出場の経歴を持つ。

© 株式会社Creative2