大村入管医療訴訟 国側、請求棄却求める 長崎地裁

入管施設内の処遇について「人間として扱ってほしい」と話すスディンさん(仮名)=大村市内

 大村入国管理センターに収容中のネパール国籍の男性(38)が、適切な治療を受けられず病状が悪化したとして、慰謝料など約387万円の国家賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が26日、長崎地裁(天川博義裁判長)であった。国側は請求棄却を求めて争う姿勢を示した。
 訴状によると、男性は2019年4月、施設内で負傷。1週間後に施設内で医師から痛み止めを処方された。だが症状は悪化し、入管側に外部の医療機関の受診を求めたが実現しなかった。8月にようやく許可されたが、大腿(だいたい)骨頭壊死(えし)症と診断されたという。
 男性の代理人は「入管収容施設における医療処遇の問題の氷山の一角にすぎない。適切な医療を与えないことでさらに追い詰めている」と意見陳述した。
 代理人によると、国側は答弁書で「対応に問題はなかった」と反論した。大村入管は「訴訟が始まったばかりなのでコメントは控える」としている。

◎仮放免中の男性訴え 「人間として扱って」

 大村入国管理センターで収容中に原告男性と知り合ったネパール国籍の男性、スディンさん=仮名=(39)。昨年4月まで計約5年半収容され、現在は一時的に収容を解く「仮放免」となり、県内に住んでいる。長崎新聞の取材に、男性や入管内の様子を語った。
 スディンさんは原告男性と同じ居住区に収容されていた。2019年4月に男性がけがをし、周囲は「脚をぶつけただけ」と思っていた。だが、症状は悪化の一途をたどった。男性は毎日のように「痛い」と言い、職員に「検査を受けたい」と訴えたが、「時間がたてば自然に治る」などとあしらわれていたという。
 その後、男性は松葉づえを突き、人に支えられて何とか歩く状態になった。スディンさんは仮放免後、面会した別の収容者から「もう全く動けなくなった」と聞いた。「いまさら放免になっても何もできないだろう」と肩を落とす。
 入管で体を壊しても「すぐには外の病院に行かせてもらえない」。スディンさんも足の痛みがひどかったときに「自費で手術を受けたい」と頼んだが、認められなかった。両脚を骨折し、車いすに乗ったまま強制送還された収容者もいた。
 スディンさんが収容されている当時、入管に医師は常駐していなかった。どんなに具合が悪くても担当の医師が来る日まで我慢しなければならず、診察を2週間受けられなかったこともある。パニックになる収容者も目にした。支援者によると、20年8月に常勤医1人が補充されたという。
 スディンさんは学生として05年に来日。専門学校を出た後、ビザ切れで収容された。母国に帰ることは難しいと考えている。内戦の影響で実家が放火されるなどの迫害を受け、「家族が無事に帰ってくるかいつも不安だった。今のミャンマーのようだった」と明かす。今は支援者の手助けを受けて生活し、日本人の女性と結婚することも決まった。「私は運が良かった」。今後も日本に住み続けたいと考えている。
 入管に対しては、こう思いを吐露した。「どんな人でも命は命。人間として扱ってほしい」

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