ベトナム車がホンダや米フォードを超える!?巨額IPOが噂される新興メーカーの実力とは

4月中旬、ベトナム株式市場に、同国最大の複合企業ビングループの子会社で国産車の生産を手掛けるビンファストが、米国での上場を検討しているとのニュースが飛び込んできました。

これを受け、ビングループの株価は一時前月末比22%上昇するなど(終値ベース)、大きく動きました。


上場時の予想時価総額がホンダや米フォードを超える?

米ブルームバーグなどによると、ビンファストは4~6月にもニューヨーク証券取引所に上場し、20~30億米ドルを調達する計画です。実現すれば、ベトナム企業による海外での初めての上場になるほか、ベトナム企業が株式市場で実施する過去最大の資金調達となります。

一部では上場時の時価総額は500~600億米ドルに達するとの強気の見方もあり、ビングループの株価を押し上げました。ちなみに、時価総額が500億米ドル前後の自動車メーカーには、日本のホンダ(約550億米ドル)や米フォード(約490億米ドル)、韓国の現代自動車(約430億米ドル)などがあり、その規模の大きさも衝撃を与えました。

ビンファストとはどんな自動車メーカーなのか

ビンファストは2019年6月にベトナム北部の港湾都市ハイフォンに自動車工場を稼働した新興自動車メーカーです。同年、ベトナム初となる国産車の小型車「ファディル」を発売しました。

現在は、「ファディル」に加えて、セダン「LUX A2.0」とスポーツタイプ多目的車(SUV)「LUX SA2.0」の3モデルを展開しており、年産能力は約25万台に上ります。2020年は国内で約3万台を販売し、ブランド別では5位となりました。

さらに今年1月、同社は初の電気自動車(EV)の発売を公表しました。新たに投入される「VF」シリーズの3モデルはいずれもSUVタイプで、早ければ11月にも国内で納車を始める見通しです。

このうち3月に予約受付が開始されたモデルでは、車両本体価格が約320万円と、ベトナムの所得水準を考えるとさほど安くないにもかかわらず、受付開始後12時間で予約台数が3,692台に達しました。これは業界の販売記録を塗り替えるもので、好調な売れ行きとなっています。

ベトナムの新車市場は年間約30万台と小さいため、日系メーカーをはじめとする主要メーカーがEVの投入を見送る中、同社は先行して市場開拓に乗り出しました。2022年にはこのEVを米国、カナダ、欧州にも輸出していく方針で、現在米国への工場建設も検討しているもようです。

今年1月には向こう5年でのEBITDA(金利払い、各種税、減価償却費などを差し引く前の利益)の黒字化を目標に掲げるなど、同社は速いペースで事業拡大を続けています。

<写真:AFP/アフロ>

新興航空会社も米IPOを計画

ビンファストに続いて、格安航空会社(LCC)のバンブー航空も米国での上場計画を公表しました。同社は2018年に市場参入した新興航空会社で、コロナ禍の逆風が吹く中、国内最大手のベトナム航空、LCC最大手のベトジェット航空と熾烈なシェア争いを繰り広げています。

同社は事業資金を得るため、7~9月にもニューヨーク証券取引所に上場し、2億米ドルを調達する方針です。

このようにベトナムの新興企業が米国への上場を目論む背景には、国内の証券市場では赤字企業の上場が認められていないことが挙げられます。先行投資の負担が大きい新興企業が、海外市場での資金調達を視野に入れるのも必然的な動きといえるでしょう。

これまでも、ベトナムでは、ビンファストやバンブー航空のような新興企業のみならず、乳製品最大手のビナミルクなど複数の企業が海外市場への上場計画を進めてきました。しかしいずれも実現に至っておらず、障害が多いのも現状です。

例えば、ベトナム企業の知名度は低いため、十分な資金を集められない可能性があります。また、ベトナムの資本市場が自由化されていないことから、海外投資家が為替ヘッジを取りづらいことも障害のひとつです。

さらに、決算書自体が先進国ほど細かいルールで作成されていないため、ベトナム企業が海外で上場を果たすまでには、国内制度の整備も含めて2~3年を要するとの見方が多いようです。

一方で、ビンファストはこれまでのベトナム企業と異なり、資金調達の規模が大きく、米国での事業展開も進めていることから、いま最も海外上場の可能性が高い企業のひとつには違いありません。今後の同社の米国上場の行方が注目されます。

<文:市場情報部 北野ちぐさ>

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