大山抹消も動じず 首位堅持の阪神・矢野監督が見据える〝馬なり野球〟

背中のハリで登録抹消となった大山

阪神は5日のヤクルト戦(神宮)を2―2で引き分けたものの、ゴールデンウイークの2カードを3勝1分けの負けなしで終え、手堅く首位をキープした。開幕から主砲・大山悠輔内野手(26)が背中の故障で出場選手登録を抹消されることになったが、矢野燿大監督(52)に動揺はない。泰然自若を貫く背景には、厚みを増した選手層を生かした、これまでにはない発想でのV奪回があるという。

2―1の8回に青木の適時内野安打で追いつかれ、今季2度目の5連勝はお預けとなった。それでも矢野監督は「よく引き分けで終われた」と振り返った。

想定外のアクシデントも起きた。4番・大山が2打席を終え、4回裏の守備から途中交代。今カードでは2試合連続で失策、好機で凡退する姿が目立つなど精彩を欠いていたが、試合後、指揮官は「背中のハリで抹消する」と明言。主砲が万全のコンディションではなかったことを明かした。

昨季28本塁打で今季もここまで打率2割9分1厘、5本塁打、24打点の主砲の離脱を〝一大事〟として見る向きもある。ただ、今年に限ればそれは当てはまらない。矢野監督が「もっと悪くならないための抹消」と話したように、そもそも大山に限らず、他の主力にも抹消はせずとも〝積極的休養〟を与えることに前向きなためだ。

実際、1日の広島戦では大山の代役4番に新人の佐藤輝を起用。矢野監督は「ずっと体のコンディション的にベストというのは難しい。休ませるところは休ませないと」と、誰か一人に依存するチームマネジメントに否定的な考え。オフの補強で厚みを増した選手層を活用し、勝負所の秋口までは随時、レギュラー陣に休養日を設け、年間通じて高水準のコンディションを維持させる狙いがある模様だ。

矢野政権では初年度に糸原と大山、昨季は近本がフル出場。今年は現時点でマルテ、糸原、近本と佐藤輝の4人がフル出場中だが、今月中には新助っ人外野手のメル・ロハス・ジュニアが昇格する見込み。これにより外国人枠の兼ね合いでマルテ、外野陣の兼ね合いで近本、佐藤輝にも試合に出ない〝休養〟のタイミングが設定可能になる。二塁手の糸原も同様で、売り出し中の新人・中野や昨季、二遊間で113試合に出場の木浪、トレードで新加入の山本など「代役候補」は豊富で、いつでも〝骨休み〟は可能な状況だ。

2000年以降、阪神では「試合に出続けること」がレギュラーの証でもあった。歴代1位の1492試合の連続フルインニング出場の鉄人・金本知憲(前監督)が03、05年の2度の優勝にフル回転で貢献、その精神は鳥谷(現ロッテ)にも受け継がれ、金本の1795試合を超える歴代2位の1939試合連続試合出場の記録が、長くチームを支えた証として残っている。

だが、そんな〝伝統〟も無理に踏襲せず、矢野監督は躊躇のない決断を下す模様。昨季から続く新型コロナ禍でのペナントでは集団感染などで主力が突如、大量離脱する可能性は常にある。危機管理の側面からもこの発想は有効となりそうだ。

V達成となれば、昨今のセ・リーグにおいても〝一石〟を投じることになる。巨人(12~14年)、広島(15~17年)、巨人(18~20年)の優勝チームで、該当年度にフル出場選手がいない年度は皆無。巨人では坂本、長野、岡本に「広島→巨人」の〝ひとり5連覇〟の丸など、優勝チームに必ず1人はフル参戦を果たす功労者がいた。

だが今年の阪神はこの流れには乗らず、シーズン終盤まであえて選手にムチを振るわない起用になりそう。リーグ制覇の方法論としても、矢野監督は球界の新スタイルを模索中だ。

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