サッカーのプロ経験なく海を渡り、東京五輪に男子の強豪メキシコ代表のコーチとして凱旋する日本人がいる。しかも、1次リーグで日本と同じA組に入る巡り合わせだ。異例の挑戦に節目を迎える西村亮太さん(36)がこのほどメキシコ市からオンラインで取材に応じ「これ以上ないほど舞台が整った」と意気込みを語った。(共同通信=石井大輔)
▽特別な感情
―4月21日の抽選で日本と同組に決まった。
「何となく当たるやろうなと思っていた。五輪世代のメキシコ代表は日本と2回、アルゼンチンと3回試合をしたことがある。そのどっちかと当たるやろうなと。もっと先で当たりたいなっていう話はテクニカルスタッフでしていたんですけど」
―東京五輪で日本と対戦する巡り合わせ。
「やっぱり特別な感情がある。舞台がこれ以上ないほど整った。まずはメキシコ代表チームが僕のことを信頼してくれて、このチャンスをくれたことに対する感謝。大会に向けて尽力してくれている方々にも感謝したい。無事に開催されることを願いながら、開催されたらサッカーを通して皆さんを勇気づけたい」
▽日本はメダル候補
―日本とは2019年のトゥーロン国際大会と国際親善試合で2度対戦している。
「ものすごい規律の取れたチームやなっていうのが第一印象。代表チームという時間がない活動の中でも、個人、個人の高い能力を生かしながらきっちり全員がそれぞれの役割をこなしている。攻撃の選手には個人で打開できる選手がいる」
―本番でも警戒しているチームの一つか。
「間違いなくそうですね。ロサノ監督も日本戦後の記者会見で『日本はメダル候補だ』と言っていたし、僕らもそういう目で日本を見ている。もちろん、僕らメキシコもメダル候補の力は十分持っていると思っている」
▽メキシコの強み
―3月の北中米カリブ海予選で1位通過。
「ものすごい良い手応えがある。全員で一緒に練習できたのは開幕前1日だけ。そんな中で選手が努力し、手応えのある予選になった」
―強みは。
「攻めるにしても守るにしても、一人一人の特徴をチームが勝つために生かし、みんなで貢献できるところ」
―日本との違いは。
「日本の方が戦術面の決まりは細かいと思う。選手もそれに対応できる文化がある。ただ、メキシコ人選手の方が闘うことに慣れています」
―五輪までに取り組みたい点は。
「今まで築いてきたものをベースに、そのレベルを5ぐらい上げること。予選もそれなりのパフォーマンスは出せたが、本大会で対戦する相手を考えると、もっとバージョンアップしていかないといけない」
▽感謝と責任
―プロ経験なく異国に飛び込み、五輪という節目を迎える。
「今まで通ってきた道を思い出しても鳥肌が立つ。最初は苦労することもたくさんあった。そんな中、人の縁に恵まれ、タイミングに恵まれてここまで来ることができた。日本にいる家族、日本から僕を支えてくれている人、こっちで僕を信頼してくれた人、助けてくれた人がいる。五輪という晴れの舞台で世界と戦えるというのは、そういう人たちに対しての感謝と責任を感じますね」
―五輪で見せたいメッセージは。
「自分を信じて、周りの人を信じて、目標に向かってすごい努力をすれば、道は開けるということ」
―目標は。
「もちろん金メダルです。でも、第1戦から一つ一つの試合に難しさがあると思う。まず目先の1試合に集中し、最後に目標の金メダルにたどり着きたい」
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西村 亮太(にしむら・りょうた)天理大まで選手としてプレーし、筑波大大学院で指導法を学ぶ。2010年に交換留学でメキシコへ。複数のクラブでコーチを務め、18年12月に東京五輪を目指す年代別メキシコ代表コーチに就任。大阪府出身。