「生徒が輝ける場を」 飲酒運転被害に遭った前川さん 吹奏楽部創設へ奔走

生徒に丁寧に指導する前川さん(左)=佐世保市重尾町、県立佐世保東翔高

 高校時代に飲酒運転の交通事故被害に遭いながらも、音楽の道を歩み続けてきた前川希帆さん(25)が今春、佐世保市の九州文化学園高に音楽教諭として採用された。吹奏楽部創設を目指して活動を始めており、「生徒たちが輝ける場をつくりたい」と意気込む。
 県立佐世保東翔高3年でトランペット奏者を目指していた2013年、大学入試に向かう途中に酒気帯び運転の車による事故に巻き込まれた。事故のけがの影響で思うような演奏ができなくなり、挫折に直面。一時は音楽の道を諦めようとも考えたが、高校時代の恩師の姿に刺激を受け音楽教諭を目指した。
 大学卒業後、18年から県立口加高(南島原市)に常勤講師として勤務し、吹奏楽部の指導も担当。吹奏楽部創設を検討していた九州文化学園高から、音楽教諭として勧誘の声が掛かった。部活動の立ち上げは一生に何度もない経験だと感じ、「口加高の生徒にも活躍して頑張る姿を見せたい」と決断した。
 4月に着任し早速、中学校で吹奏楽の経験がある生徒を中心に声を掛け、有志10人ほどが集まった。来年度の吹奏楽部発足に向け準備を進めている。当面目指すのは校歌の演奏。生徒と一緒にピアノ譜から吹奏楽用の楽譜を起こし、学校の楽器がないため、個人の楽器や母校の佐世保東翔高から借りた楽器を使って練習。学校行事などでの演奏披露を目指している。
 「指の動かし方、覚えた?」「歌うように吹くよ」-。1日午後、練習があった同校の教室を訪ねると、前川さんが明るく生徒に声を掛けていた。フルートで1年の柴田鈴乃さん(15)は「パティシエになるために入学したが、吹奏楽はできないと思っていた。迫力のある演奏で憧れていた前川先生に、教えてもらえてうれしい」と声を弾ませた。
 新型コロナウイルス禍の状況を見ながら、今後は校内外で積極的に演奏をしたいと考える前川さん。「音楽は子どもから大人まで参加できる。何かに向かって頑張る過程を一番大切にして、指導していきたい」と抱負を語った。


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