年商1000万の41歳フリーウェブエンジニア「法人化したほうが社会保険料はお得?」

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、41歳、フリーランスウェブエンジニアの男性。1年ほど前からフリーで活動されている相談者。会社員時代の健康保険組合の任意継続期限が切れたのちに、法人化して社会保険と厚生年金に加入するか、個人事業主のまま国民健康保険+国民年金に加入するか迷っているといいます。税理士の伊藤英佑氏がお答えします。

1年ほど前からフリーランスでWEBエンジニアをしております。

現在は前職の会社員時代の健康保険組合に任意継続で加入しておりますが、加入期限が最大2年となっており、このまま行けば1年後には国民健康保険に加入することとなります。

そこで法人成りして社会保険と厚生年金に加入するか、このまま個人事業主のまま国民健康保険+国民年金にするか迷っております。

社会保障関連でメリットが有る一方で、万が一事業をやめて会社員に戻る場合は廃業手続きが大変そうというイメージもあり躊躇しています(現時点では戻るつもりはありませんが)。

法人化するとしたら以下の概要となります

・従業員は自分ひとりで誰かを雇う予定はない

・売上は900〜1,000万円前後で経費比率は20%を超えない

・事務所は自宅(持ち家)

・現時点では年金代わりにiDeCoをほぼ満額(月6万7,000円)かけている

また開業前は18年ほど会社員をしており、そのときに厚生年金に加入していました。以上、アドバイスよろしくお願いいたします

【相談者プロフィール】

・男性、41歳、自営業、独身

・住居の形態:持ち家(マンション・集合住宅・東京都)

・毎月の世帯の手取り金額:75万円(税・社会保険料支払い前)

・ボーナスの有無:なし

・毎月の世帯の支出の目安:30万円

【毎月の支出の内訳】

・住居費:10万1,000円(住宅ローン+管理費・修繕積立金)

・食費:4万円

・水道光熱費:1万3,000円

・教育費:1万円

・保険料:3,000円

・通信費:1万円

・お小遣い:2万円

・その他:国民年金1万7,000円 / 社会保険任意継続 3万5,000円

・毎月の貯蓄額:20万円

(先取り預金としてつみたてNISA+特定口座投信8万3,000円/ iDeCo6万7,000円)

・現在の貯蓄総額:500万円

・現在の投資総額:210万円(iDeCo含む)

・現在の負債総額:2,600万円(住宅ローン)


伊藤:ご質問者は現在41歳個人事業主(フリーランス)のWEBエンジニアで、年間売上は900〜1,000万円前後、経費比率は20%なので所得は720~800万円の方です。また、他人を雇用する予定もない前提で、個人事業主のままか、法人成りし個人会社とするのか、どちらが良いかというご質問です。

特に、個人会社で法人成りして社会保険に加入して健康保険料と厚生年金保険料を納めるのが良いのか、それとも個人事業主として国民健康保険と国民年金のみにするのはどちらが良いのかという質問をいただいたので、考えてみましょう。

個人事業主と法人成り(個人会社)の違い

まず結論としては、個人事業主のままでいるか、法人成り(個人会社)するかのどちらが良いかは、社会保険料の負担の損得だけで決めるべき問題ではなく、法人運営の労力・費用や税金面を含めたトータルを考慮して決めるべきものであるため、先に全体論をご説明をいたします。

個人事業主のままでいる場合、事業収入から経費を引いた事業所得に、所得控除により国民年金・国民健康保険・iDeCo(小規模企業共済等掛金控除)の支払いや基礎控除などを控除して課税所得を算出し、累進税率による所得税と住民税が掛かり、残りが手取りとなります。

個人会社とした場合、事業収入は法人での売上となり、諸経費も法人で負担することになります。そこから役員報酬として給与を得ます。社会保険料として厚生年金と健康保険を協会けんぽに加入し、会社と個人の折半で負担します。給与には所得税が掛かり、事業収入から諸経費・役員報酬・社会保険料会社負担分などを引いた利益(法人所得)に法人税が掛かります。

また、iDeCoへの拠出可能額は個人事業主の月額上限6万8,000円から厚生年金加入者の月額上限2万3,000円に減ります。

法人運営の労力と信用力向上も考慮して

ご予定はないとのことですが、もし就職した場合の社会保険の手続きの煩雑さを気にされていますが、通常は所定の書類等を就職する会社へ提出すれば会社側が手続きをしてくれますし、そこまで気にするほどではないでしょう。逆に、個人会社での社会保険の加入手続きはご自身でしないといけませんし、法人と個人で別々に預金の管理や、法人税と所得税のそれぞれの給与計算(年末調整)や税務申告等の手続きが発生するため、法人運営の労力の大変さや会社運営費用増をより考慮した方がいいでしょう。

また、経済性だけでなく、法人形態の方が新規受注の仕事の信用力向上や社会的な見栄えが良いという話もあります。今後、収入が増加していく場合や働き方の多様化の時代ですので、個人会社を設立して運営していくこと自体はプラスに働く面もあるかもしれません。

社会保険料負担の損得だけでなく、これらを総合的に勘案してどうするか決められるといいでしょう。

社会保険料負担を簡易シミュレーション 個人事業主の場合

ご質問は社会保険料負担が個人事業主か個人会社かの比較のため、社会保険料負担を見ていきましょう。

個人事業主を続ける場合、年間所得は720~800万円の間をとって750万円と仮定します。また、65歳まで働き65歳から年金をもらうと仮定します。注意点ですが、40歳を超えると国民健康保険は介護保険料の負担も求められるので、その分も加えてあります。

【個人事業主で例えば東京都世田谷区在住の場合】

◆国民健康保険 年額58万1,348円
◆国民年金 令和3年度の月額1万6,610円、年額で19万9,320円
(国民年金は所得や居住地域に関係なく、加入者全員が同額となります)
◆iDeCoの掛け金 月額6万7,000円、年額80万4,000円
(上限は月額6万8,000円ですが現在の拠出額。なお、法人化後、企業年金がない会社員は月額上限が2万3,000円に変更になります)

社会保険料負担を簡易シミュレーション 個人会社の場合

次に法人化した場合の負担額を見てみましょう。

注意点として、法人化して社会保険に加入した場合、会社員であれば勤務先と折半する社会保険料を、個人会社では実質100%を自己負担により納めなければなりません。会社員と異なり、社会保険料会社負担分を自分の所有する法人から納めるため、結局自分が負担するのと同じだからです。そのため個人負担分と会社負担分は合算で考えます。

ご質問者の所得水準ですと、役員報酬の見積もりは社会保険料の会社負担分の支払いを考慮し、月額約54万円・年間約648万円を設定上限として考えます。

【役員報酬月額54万円の場合】
◆健康保険料 健康保険料は月額6万1,692円、年間で74万304円
◆厚生年金保険料 厚生年金保険料は月額9万6,990円、年間で116万3,880円
※全国健康保険協会の協会けんぽ東京支部に加入した場合の数字です。

健康保険料は支払額によって受益は変わりませんが、厚生年金保険料とiDeCoは老後の年金でご自身に返ってきますので、多く払うと損ではなく、現在の生活費を圧迫しない限り老後を考えると多く払う方が得ともいえます。

また、生活費をいったん考慮せず、社会保険料の負担軽減ということだけを考え、例えば役員報酬を月額10万円にした場合の社会保険料負担額を見てみます。

【役員報酬月額10万円の場合】
◆健康保険料 健康保険料は月額1万1,407円、年間で13万6,884円
◆厚生年金保険料 厚生年金保険料は月額1万7,934円、年間で21万5,208円
このように極端に役員報酬を減らすと社会保険料は削減できる試算になります。

ただ、役員報酬が低すぎると累進課税である所得税率の低い部分や給与所得控除を十分に使えないため、税務上は有利とは言えません。また、法人へお金が残ってしまうため、生活費資金を考えると、個人で自由にお金を使うには個人へお金を移さなければいけませんが、そこでの課税や貸付で返済が必要など、論点が煩雑化はします。将来、退職金として支払うのが法人から個人への有利なお金の移転方法にはなります。

なお、ここでは詳細は省きますが、事前確定届出給与を活用して社会保険料負担を軽減する方法などもあるようですので、法人化した際には調べてみるといいでしょう。

消費税の観点からも検討を

上記を総合的に考えると、あくまで私見ですが、法人化により社会保険料及び税金の負担を軽減するようコントロールは出来なくはないと思いますが、労力や事務負担コストを合わせて考えると、社会保険料の負担の損得だけではなく慎重に検討いただくほうが良いでしょう。

また、インボイス制度の適用の影響を考えると今後は難しい面があるかもしれませんが、売上1,000万円を超えた2年後から消費税課税事業者になりますが、個人事業主で売上1,000万円を超えた2年後に法人化すると消費税の課税が先延ばしにもなりますので、消費税まで考え、法人化の要否やタイミングなどを検討されるといいでしょう。

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