自殺防ぐ「最後の逃げ場」相談電話がつながらない

遺族がたまらず始めた「傾聴活動」

©株式会社全国新聞ネット

 新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない中、若者を中心に自ら命を絶つ人が増えている。死を考える人が、追い詰められた果てに逃げ込む場所の一つとして、NPO法人などの各種相談窓口があるが、電話をしてみても、大抵は話し中。混み合いすぎていてめったにつながらず、何時間も待たされるのが現状だ。

 「こんなことでは、電話をしてきた人の心の中で最後の糸が切れてしまう」。いても立ってもいられず、全くの個人で、24時間無休の相談窓口を始めた自死遺族がいる。大阪市都島区に住む西田賢一さん(54)だ。

 3カ月ほど前に相談受け付けを始めたが、開始の告知はツイッターでつぶやいただけ。特別な機器を用意したわけでもなく、携帯電話とパソコンで電話やツイッターを受けるだけの態勢だが、それでも1日1件ほどの相談に応じている。 (共同通信=大木賢一)

相談窓口を始めた西田賢一さん=4月、大阪市都島区

 ▽「死にたい」

 4月初め、西田さんは「死にたい。道具も準備も、もう出来ている」と話す男性からの相談を受けた。相手は愛知県在住。緊急性が高いと直感的に思った西田さんは朝の新幹線に飛び乗った。名古屋市の喫茶店で2時間ほど話し、何とか思いとどまらせて帰ってきた。この男性も西田さんと同様に自死遺族だった。「死んだ妻に会いたい。夢でもいいから会って、なんで死んだのか聞きたい」と繰り返していた。男性がその後どうしているのかは分からない。

 西田さんは2012年に17歳の長女を失った。長女は3歳の頃、西田さんの元妻に引き取られ、小学校に入る頃には、元妻の交際相手である無職の男と3人で暮らすようになった。

 幼い時から男に性的虐待と暴力を受け、西田さんが一時的に保護したことがあった。中学3年の進路相談にも西田さんが付き添った。元妻は「娘を返せ」と言い続け、高校入学と同時に長女は元妻の元に帰った。

 やがて、長女は学校に行かなくなって中退。家出や異性との交際、同居、リストカットを繰り返し、ある日の明け方、東京都内の児童公園で命を絶った。元妻は「頭のおかしい子だった。私たちは何も悪くない。勝手に死んだ娘が悪い」と言った。

 西田さんは生きていることに現実感がない「離人症」に陥り、幻聴を聞くようになった。死にたいと思い、首をつるためベルトを2本買った。気がついたら服が土と葉っぱまみれだったことがある。精神科で注意欠陥多動性障害(ADHD)、うつ病と診断された。

 相談窓口に電話をするには勇気がいった。振り絞って電話をしたがつながらず、5時間かけ続けてやっとつながった。

公園の公衆電話(本文とは関係ありません)

 ▽絶望

 24時間の相談を受け付けている窓口は決して多くはない。早朝に命を絶つ人も少なくないのに、受け付けは夜間だけだったり、曜日によって時間が違ったり、やっていない日があったり。「わらにもすがる思いで電話をかけても、それがたまたまやっていない時間だったらどうなるのか。誰にも聴いてもらえない絶望感は余計に増幅するのではないのか」。西田さんにはそんな思いがある。人員と窓口そのものの供給が圧倒的に足りていないのが現実だ。

 当初は緊急性の高い自死防止と自死遺族の相談に限ろうと考えたが、それでは遅いのではないかと感じるようになった。

 人が死の淵にまで追い込まれる過程には、いろいろな種類の悩みや苦しみがある。それを打ち明ける相手がいないこともまた、苦しみの一つだ。間口を広げて早い段階で話を聴かなければ、結局自死は防げないのかもしれない。そう思って今は「よろず悩み相談」を受け付けている。恋愛の悩みでも、本人にとっては深刻な問題だ。手伝ってくれる仲間も現れ、「ケニーズホーム」という名で「傾聴活動」を続けている。

 だが、当然ながら個人での活動には限界がある。「慈善団体や草の根レベルでどうこうできる段階ではない」。西田さんが望むのは、国がもっと財政的に補助して、窓口の数や回線数、相談員を大幅に増やすことだ。せめて、死の寸前にいる人にとっては、待たずとも電話がつながる環境になってほしい。そして、より身近で長くつきあえる人や機関にスムーズにつなげられるようになってほしい。

人が行き交う街頭で立ち止まる女性(本文とは関係ありません)

 ▽理由

 西田さんが実名や顔を出して活動するのには、理由がある。日本社会には「自死は悪いこと。後ろめたいこと」との根深い偏見がある。だが西田さんは、娘の人生そのものが失敗だったとは絶対に思いたくない。匿名を使い、カメラに背を向けたら「後ろめたさ」を認めることになってしまう。娘は自分の人生を立派に生きたのだ。だから、救えなかったことの自責を抱えながらも、自分はいつでも堂々としていたいと思っている。

 西田さんは視覚障害者でもあり、生まれつき、指定難病の膠様滴状角膜(こうようてきじょうかくまく)ジストロフィーを患っている。再発性角膜びらんの発作が出ると眼は全く見えなくなり、その状態が何週間も続く。転職を繰り返さざるを得ず、病気のことを隠さないと仕事に雇ってもらえない。パワハラや差別も受けてきたと感じる。

 障害者や社会的弱者でも、社会の役に立てる場所をつくりたい、との思いも活動のきっかけの一つだ。ホームレスの支援活動をしていたこともある。

公園を歩く女性(本文とは関係ありません)

 日本は先進国の中でも自死の数が多い。その原因は「人の多様性を認めず、自己責任を強いる社会の生きづらさ」にあるのだろう。「コロナは別にするにしても、日本はすでに、だれもが安心して暮らせる国ではない。自己責任で生き抜くには厳しすぎる」

 そんな世情の中で、「死」は誰のそばにもある。忌み嫌うことなく、死や心の病について話せる場所や、それができる空気こそが必要なのだと、西田さんは感じている。

 ケニーズホームの代表電話は090(5247)8846。ツイッターのアカウントは@keni_respectyou