カウント3-0から振るのはタブー? 名将の発言が物議を醸す

日本時間5月18日、ホワイトソックスがツインズを相手に16対4で大勝した試合でイェルミン・メルセデス(ホワイトソックス)がウィリアンス・アストゥディーヨから9回表に6号ソロを放った。打者は今季売り出し中のメルセデス、投手は敗戦処理として登板していた人気者のアストゥディーヨ、しかも47.1マイル(約75.8キロ)のスローボールを打ったということで大きな話題となったが、ホワイトソックスのトニー・ラルーサ監督はこの一打を快く思わなかった。その殿堂入りの名将の発言が物議を醸している。

メルセデスが本塁打を打ったのはホワイトソックスが11点をリードし、ツインズが野手を登板させて白旗をあげている場面。しかもメルセデスはカウント3-0からストライクゾーンにきたスローボールを打ち、センターへ6号ソロを放った。ラルーサはメルセデスのこの一打を相手へのリスペクトを欠く行為としてタブー視したのだ。

現在76歳のラルーサは監督として歴代3位の勝利数をマークし、2014年にアメリカ野球殿堂入りも果たしている名将。2011年カージナルスでワールドシリーズを制したのを最後に現場を離れていたが、今季ホワイトソックスの監督として現場に戻ってきた。相手をリスペクトし、不文律を守りながら輝かしいキャリアを積み上げてきたラルーサにとって、メルセデスの一打は許しがたいものだったのだろう。

ラルーサはメルセデスの一打を「大きな過ち」と表現。「カウント3-0からスイングしていい状況ではなかったので私は動揺した。ツインズのベンチも動揺していた。待てのサインを出していたが、彼は無視したんだ。スポーツマンシップやリスペクトを欠く行為であり、彼は過ちを犯した。チームのために我慢しなければならないこともある。こんなことはもう二度と起こらないだろう」と語り、怒りをあらわにした。

この件について、日本時間5月19日の試合で進展があった。7回表に登板したツインズのタイラー・ダフィーがメルセデスに対して背中の後ろを通るボールを投じたのだ。審判団はこの1球について、協議の末、前日の一打に対する報復行為とみなしてダフィーに退場を宣告。これに抗議したツインズのロッコ・バルデリ監督も退場となった。バルデリは前日のメルセデスの一打について「驚いた」「ハッピーではなかった」とコメント。また、ラルーサの発言に対して「感謝している」と語っており、メルセデスの一打をツインズ側が快く思っていなかったことは間違いない。

一方のラルーサは「(退場は)審判の意見だ。私には(報復を狙ったものかどうかは)明らかではなかった」とコメント。「頭を狙っていたとしたら(報復を)疑うけれど、ツインズ側の対応に問題はなかったと思う」と語り、メルセデスの背中を通過したダフィーの1球に「問題なし」との見解を示した。この発言についても「監督が自軍の選手を守らないのか」と批判の声が集まっている。

メジャーリーグでは時代遅れな不文律を排除していこうという流れができつつある。派手なバットフリップを見せる選手が増えてきたのもその流れにのっとったものだ。とはいえ、ラルーサのように古くからの伝統を大切にしたいと考える者もいる。ツインズ側がメルセデスの一打を快く思っていなかったことからもわかるように、「時代遅れ」と批判されている考えを持っているのは決してラルーサだけではない。相手へのリスペクトを大切にしながら1世紀以上の歴史を紡いできたメジャーリーグだが、相手へのリスペクトとは何かを改めて考える時期にきているのかもしれない。

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