有害鳥獣の「ジビエ」活用へ試行錯誤20年 飲食店に販路拡大【ルポ・下】

販売しているイノシシ肉=佐世保市、山下商店

 有害鳥獣は捕獲後、ほとんどが焼却、埋葬処分されてきた。しかし近年、全国的にジビエが注目されるようになっている。佐世保市内での現状はどうなのか。4月下旬、市内で唯一のイノシシ肉処理施設「ヘルシー・BOAR」(江迎町)を訪ねた。
 同町では、イノシシの捕獲数が増加しており、2010年度に319頭だったのが20年度には658頭に上っている。町内では以前からジビエとして有効活用しようという動きがあり、江迎猟友会は旧江迎町と県から支援を受け、03年に県内初の食肉処理施設を開設した。
 肉の販売は、同猟友会から委託を受けた山下商店(同町)が行ってきた。「試行錯誤の20年」と振り返るのは、同商店と同猟友会の会長を務める山下伊三郎さん(80)と、娘で同猟友会事務局の元谷朋子さん(54)。
 同店が扱うのは江迎で捕れた、肉が柔らかく臭みが少ない40~60キロの雌のイノシシ。当初は一般の人に買ってもらおうと、ソーセージなどの商品開発に加え、試食会や料理コンテストなども開いていたが、家庭での使用は定着しなかった。
 山下さんは、イノシシ肉はおいしくないという先入観がある点や、すぐに購入できる環境が整っていない点を挙げる。解体は地域の男性が1人で担当。捕獲の連絡が入ってから作業を行うため、1日2頭が限界だという。
 一番の収入源はふるさと納税の返礼品としての活用。開始した15年当時は全国的にジビエが珍しく、在庫が足りなくなるほど繁盛したという。しかし、全国的な普及に伴い減少、ジビエの活用は経営的には厳しい状況に立たされている。
 試行錯誤の結果、店頭で販売するより飲食店への販路拡大が現実的だと元谷さんは話す。現在、同町の観光施設やレストランにイノシシ肉を卸している。県によると、ジビエの食肉処理施設は県内に15カ所ある。それぞれ活用の道を模索しているが、一般家庭の食卓に上るにはまだまだ時間がかかりそうだ。

市内で唯一のイノシシ肉処理施設「ヘルシー・BOAR」=佐世保市江迎町

© 株式会社長崎新聞社